[BACK] [TOP] [HOME]
* とんがり帽子 *





てくてくゆらゆら ぱたぱたぴこぴこ
彼女が歩けば帽子が揺れる
帽子が揺れれば飾りが跳ねる
とんがり帽子に金銀月星
ちびっこ魔女の ささやかな自己主張



「あらハル君、こんなところでどうしたんですの?」
あーいや、この『三賢人』の肖像画、おもしろいなーって
「あら、私達のですわね? 私が就任した時に描いていただいたものですから、もう二年以上も経つんですわね〜」

塔の玄関にずらりと飾られた、歴代『三賢人』の肖像画
年齢も性別も、種族さえバラバラな彼らの共通点は
黒い長衣に銀の帯 長ったらしい袖には月を模した玉飾り

「この正装、堅苦しくて苦手ですわ〜」
同感っすね まだ着たことないけど

「正装」に身を包み いかめしい顔で並ぶ三賢人達
なかでも一際目立っているのが、誰であろうオレのおししょーサマ
――というか、その帽子

「ああ、アルの帽子ですわね?」
そうそう、一人だけとんがり帽子をかぶって、いかにも偉そうにふんぞり返ってるおししょーサマ
そういやこの帽子、客が来た時は必ずかぶってるよな
「あの時は大変でしたわ〜。このお気に入りの帽子をどうしてもかぶるんだってごねてごねて……」
「誰がごねたって!?」

振り返れば、廊下の向こうでぴこぴこ揺れるとんがり帽子

「あらアル。今、この肖像画の話をしてたんですのよ」
「ああ、その絵? あの画家はなかなかいい腕してたわよね。わたしのこの美貌を余すことなく写し取って」
肖像画ってのは大体、ニ割増しくらいで描かれるもんなんだけどなー
「何か言った!?」
いや、なんでもないっす
「そう言えば、アルがその帽子をかぶるようになったのは、三賢人に任命されてからですわね」
「いいでしょ、この帽子。こう見えてもれっきとした魔法の品なのよ。背も高く見えるし」
……そっちが主目的だろ
どんだけ深い意味合いがあるのかと思いきや、ただの見栄っ張りかよ
「悪い!? わたしだってね、好きでちっこいわけじゃないんだからねっ!」
あー、はいはい
「この帽子を全世界に広めて、いつか魔術士の定番にするのがわたしの夢なんだから!」
「あら、でもみんながとんがり帽子をかぶったら、ますますアルが小さく見えてしまいません?」
「うっ……盲点だったわ」

おししょーサマ、実は結構ぬけてんだよな
「何か言った!?」
いーえ、なんでも






  魔女のとんがり帽子って、どこら辺から定番になったんでしょうね?
 手持ちの資料を当たってみましたが、帽子の記述はどこにもなくて。
 似たようなものというと、15世紀のフランス宮廷女性の間で流行っていた「エナン」という円錐型の帽子かな。でもエナンにはつばがないし……。
 そもそも、私達の持っている「いかにも」な魔女像は、一体どこから来たものなのか。
 史実(というのもなんか語弊がある気がしますが)に基づいたものもあれば、完全な創作もあるでしょうし、その辺りを突っ込んで調べてみると面白そうですね。
 そしてやっと名前が出てきました、新米魔法使い君(笑) 「ハル」というのは通り名で、本名は貴族らしく長ったらしいです(笑) そして修行を終え、一人前の魔術士となった暁には「魔術士名」が与えられることになりますが、この調子じゃ当分先の話になりそうですね(^_^;)。

初出 2007.02.05



<< >>
[BACK] [TOP] [HOME]