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* 巻物 *




虫食いだらけの 巻物に
綴られたるは 魔法文字
聖なる石に魔法陣
正しく並べて 呪文を唱えて
何が出るかは お楽しみ……?



ったく、なにが試験だ
いきなりそんなこと言われても 困るんだっつーの
大体、試されるほど何かを教わった記憶もないし
役に立つ道具も持ってないし

『ガチガチガチガチ』

あー、ちょっと静かにしてちょーだいね、ジョセフィーヌさん
道具呼ばわりしたの謝るから

のどかな昼下がり
突然告げられた『試験』

「制限時間内に巻物を読み解いて、呪文を完成させること」

そもそも、その巻物ってどこにあるんだよ
「それを探すのも試験のうちよ!」
マジっすか
「洞窟だの迷路だのを指定されなかっただけマシだと思いなさい!」
そっちの方がマシだった気がするな
この『塔』がどんだけ広くて入り組んでるか
端から端まで駆けずり回ったオレが、一番よく知ってんだから

「はい、ハル君。お弁当ですわ〜。頑張って下さいませ〜」
おっ、俄然やる気湧いてきた
がんばりまーっす
「ほれ見習い、手製の青汁じゃ。頑張れよ」
うっ、俄然へこんだ……
「あほなこと言ってないでさっさと探すっ!!」
へいへい


あっちもないし
こっちもないし
厠も見たし
厩も見たし
厨房も物置も
食堂も研究室も
書庫も薬品庫も
風呂場も脱衣所も――

「ここは入るなっ!!!」
だって探せって言ったじゃん
「ここにはないわよ、ばかっ!! でてけー!!!」
ちっ

そうやって塔内を駆けずり回ること、二刻あまり――

ぜーっぜーっ
よーし、あとはここだけだ

おー、あったあった
屋上のど真ん中に でーんとそのまんま
少しは隠す努力をしようぜ、おししょーサマ

えーとなになに、以下の呪文を唱えよ?
うへー、小難しい呪文だなあ
ロクに魔法文字も習ってないのに
こんなの出来っこないじゃん

『諦めたらそこで終わりなのよ!』

脳裏にこだまする 甲高い声
腕を組み 偉そうにふんぞり返って
いつだって 貴女はそう言っていた

へーへー、分かってますよ、おししょーサマ
すぐに諦めようとするオレに
諦めない強さを教えてくれたのは 貴女だから

ま、やるだけやってみますか
えーっと、最初の言葉は……
あれ、これ読んだことあるな
おししょーサマがいつも護符に書いてるアレだ
次の文字は、ユラ師の部屋にかかってる封印鍵の……
じゃあこれは……?

走馬灯のように蘇る ドタバタな日々
断片的な記憶と知識を繋ぎ合わせ
思いの丈をすべて、ぶち込んで

いくぜっ、ジョセフィーヌさん!

『カチカチカチカチ』

空中に描き出す魔法陣
十重二十重の韻を踏み
高らかに 歌うように

『……我が前に、現れたまえ! 《判定者》!』

ボボボボボボーンッ

ぶわっ、なんだよこの煙っ!

「はい、ごーかく!」

げっ、その声は――

「開始から二刻半か。まあ、こんなもんかしらね」
「まあ、すごい。三刻を切るなんて思いませんでしたわ〜」
「しかしまあ、よくもアルの下であれだけ学び取ったものよ」
「まともに授業してるとこなんぞ見たことがないがのー」
「そもそも、よくもまーあれだけ酷い扱いを受けて逃げ出さなかったもんじゃ」
「それこそが快挙じゃなあ」

「ちょっと、じじいども!! 黙りなさい!」

こほん、と小さく咳払い
そうしていつものように
小さい体でふんぞり返り

「アンタを初級魔術士と認定するわ!」

初級魔術士って……
それって、今までとどう違うんだ?

「なに言ってんのよ。今までは「魔術士見習い」でしょ!」

えーっと、つまり……?

「まだまだ道のりは長いってことよ。精進なさい! ハル」

なんてこった
オレの修行生活は まだまだ続くらしい

……とほほ……

「さー、昇級祝いにぱーっとやりましょー!!」
へーい
こうなりゃヤケだ
地の果てまでお供しますとも おししょーサマ






 見習い魔法使いハル君の物語、無事ここに完結です(^^ゞ
 完結した……と言えるのかどうか(^^ゞ 見習いから駆け出しになっただけなんですが(^_^;)
 ハル君の苦労はこれからも続きますが(こらこら) お題はここで一段落。お付き合いくださりありがとうございました〜m(__)m

 巻物、というと忍者が口にくわえているイメージがありますが(笑) 羊皮紙だとなんだか巻けそうにないので(^^ゞ こういう魔法の巻物《スクロール》もきっと紙なのだと思います。
 普段、魔法の授業で使われるのは教本のようなものだと思いますが、特別な魔法などはやっぱり、一つずつ巻物にしたためられて、厳重に保管されているんでしょう。

 さて、無事「初級魔術士」となったハル君。これからも破天荒なお師匠様のもと、破天荒な弟子に成長してくれることでしょう。
 彼の前途を祝って、乾杯っ!!

初出 2007.08.25



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