七夕の日はいつだって雨
天の川が溢れたら カササギの橋が渡れずに
織姫と彦星は出会えない
「……どんだけ年中行事を大切にしたいんですかね、この大学は」
一号館のロビーに飾られた笹に、めぐみクンは呆れ顔。でもほら、もうこんなに短冊が飾られてるってことは、みんな結構ノリノリだってことじゃないかな。
「なに言っちゃってんの、七夕は大切だよ! ほれお前も書け」
さっきから一生懸命短冊を書いてる吉田君は、これで何個目のお願いなんだろう?
「なになに……おい吉田。お星様は成績を上げてはくれんと思うぞ」
「じゃあこれだ。『織姫ちゃんみたいなかわいい彼女が出来ますように』!」
「彦星から却下されるだろ、それ」
なんだかんだ突っ込みつつ、めぐみクンが書いたのは――
『湿気退散』
「退散っておまえ、悪霊じゃねえんだからよ」
「こっちの方が切実だ! 悪霊は見えなきゃ問題ないが、湿気はあらゆるものを駄目にするんだぞ」
「リアリストだなあお前さんは。おっ、ケイさんはなんてお願いするん?」
えっへん。わたしのお願いごとは、小さい時からずーっと一緒なんだ。
『晴れますように』
「晴れるって、七夕当日のことですか?」
「うん。だって、雨が降ると織姫と彦星が会えないでしょ?」
「なるほどね。でもだいじょーぶ! この吉田君はめっちゃ晴れ男だからね! 気合入れて晴れにするから!」
「するからって、お前は気象兵器か」
えっへんと胸を張る吉田君に、またまた呆れ顔のめぐみクン。そして、思い出したようにこう付け足した。
「まあ、七夕の雨は嬉し涙だとも言いますけどね」
「え、そうなの?」
「あれ、俺は天の神様の涙雨だと思ってた」
「ええー」
諸説紛々あるけれど
年に一度の逢瀬なんだもの
叶えさせてあげたいから
「よし、じゃあこうしようかな」
『全ての恋人達が幸せでありますように』
「ケイさん。織姫と彦星は夫婦です」
「あれ?」