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第四章 運命(さだめ)の星


 そこは、満天の星空だった。
 いつもと同じ、青い空間。
 いつもと違うのは、少年の驚いた顔。
「あれ? この星形電球、おじさんのだったんだ」
 少年の手には、一つの星形電球が握られていた。
「は?」
 彼は一瞬、何を言われたのか分からなかった。一瞬遅れて思考回路が繋がる。
「それが、私の命?」
「そうだったみたいだね。壊れたから取り替えようとしたんだけど」
 確かに電球には、大きなひび割れが入っていた。
「そっか……。おじさんのだったんだ」
 淡々と言う少年。逆に彼の心には激しい怒りが込み上げて来た。
「お前が私の命を奪ったのか!」
 彼にとって、死ぬことは怖くない。むしろ、部下全員の命を救い、船長としての責任を果たせたのだから、悔いはなかった。だが、それでも、死ぬことを望んでもいないのに、他人の手によって命を奪われてしまうのは納得がいかなかった。
 だが、激怒する彼とは対照的に、少年は無表情だった。
「勘違いしないでよね。僕はこれが仕事なんだ。私情を交えちゃいけないんだよ」
「仕事で命を奪うのか!」
「だから違うってば! 僕がこの電球を取ったのはひびが入ったから。ひびを入れたのは君自身。君の選択がそうさせたんだから」
 少年は頭上に小さく輝く電球に触れた。
「これは僕が取り替えたばかりの命。まだ傷も汚れもない」
 少年は、手にしていた彼の電球を放り投げた。彼は慌ててそれを受け取り、まじまじと見た。電球にはくもり一つなく、ひびさえなければそのまま使えそうだ。
「僕はそれがどんなに偉業を成し遂げた者だろうと、虫だろうと、その命を取り替える。だって『死』は、どんな命の上にも平等に与えられる権利であり義務だから」
 淡々と語る少年の言葉が、彼の心に染みていった。怒りが溶け、安心感となって広がっていく。
「例えば君がアリを踏む。その好意によってアリの命の電球にひびが入る。僕はそれを取り替える。アリは新しい命となって生まれ変わる。命は常に一つ。だから、与えられた命を精一杯生きることが、命あるものに与えられた使命なんだ」
 そう言った少年の顔は寂しそうだった。
「私はこれからどうなる?」
 いつもの冷静さを取り戻して彼は尋ねた。
「おじさんの人生は終わった。今度は新しい命となって生まれ変わるんだよ。それまで、休んでいいんだ」
 慈愛の微笑を浮かべて少年は言った。
「この、『私』でいた時の記憶はどうなる? 全て消えてしまうのか?」
「そうだね。でも恐れることはないんだ」
 少年はすっと手を伸ばした。と、彼の手の中の電球がふわりと浮き上がり、少年の所まで飛んでいく。少年は電球をキャッチして、言葉を続けた。
「この電球はこれから、新しい電球を作る材料となる。これから生まれる命の中に、今までの『君』が組み込まれる。そうしてみんな、生と死の輪となって回り続けるんだ」
 電球が眩い光を放ち、無数の光の粒子となって星空に吸い込まれていった。
「さあ、行きなよ、おじさん。また会おうね」
 少年の声が遠くなっていく。視界がぼやけて、無数の星の輝きだけが目の奥に残った。
「そうだ、僕の別名を教えてあげる。僕はね、『運命(さだめ)』って呼ばれてるんだ」
(運命――)
 意識がぼやけていく。そして、最後の意識の一片で、彼は思った。
(君は――ずっとそこに居るのか?)
 少年は答えた。
「そう。僕はずっとここに居る。この世界が生まれてから滅亡するまで、僕はこのまま存在し続ける。僕はいつでも一人なんだ。ずっとずっと、最後の時までね」
 その言葉を聞き取ったのを最後に、彼は消えた。『星の子供』の寂しそうな瞳を、深く記憶に刻んで。

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