「庭園」没原稿2 |
そこは、とにかく眩しい場所だった。 (ここ、どこだ?) 至極もっともな疑問が脳裏を掠めたが、何故だかどうでもいいことのように思えた。それよりも、この眩しさはどうにかならないのだろうか。 そう考えた途端に、ぐんと光が和らいで、それまで眩しくて見えなかった光景が目に飛び込んでくる。 (どっかの庭か?) 新緑の木々に囲まれた広大な庭園。やわらかな日差しに晒されて、大理石の女神像が芝の上に蒼い影を落とす。 それは絵に描いたような、昼下がりの庭園だった。しかし、何かがおかしい。妙に、心にひっかかるものがある。 その違和感がどうにももどかしくて、よくよく辺りを見回す。綺麗に刈り込まれた潅木、咲き誇る花々、その合間に置かれた巨大な椅子や机――? (そうか、でかいんだ!) 目に見えるすべてが、普段の二割増しくらい大きくなっている。そう、まるで自分の方が縮んでしまったように……。 「なんだ、これ」 唇から漏れた声が、奇妙に高い。 はっとして手を見つめる。それも、やけに小さくて頼りない。 「……なんだ、これ!?」 慌てて全身を見回し、ますます頭がこんがらがる。今は冬のはずだ、なのになぜ半袖で寒くないのか。いや問題はそこじゃない。半袖の上着から覗く腕。それは傷ひとつない、すべすべとした子供の――。 「まさか……?」 ふと、近くに水盤があることに気づき、飛びつくようにして水面を覗き込む。 そこに映っていたのは、漆黒の髪に黒曜石の瞳、負けん気の強そうな少年の顔。年の頃はそう、十歳かそこらだろうか。ぼさぼさの髪とこざっぱりした服がどうにも不釣合いだったが、その格好には覚えがあった。ごく短い間だけ袖を通したことのあるそれは、神学生の制服だ。 ラウル=エバスト神学生。それはこれまでの人生で、最も短い期間しか使用されなかった呼び名。 苦い思い出と共にその呼称を思い出し、そこでようやく、あることに気づく。そうだ、これは―― 「夢だな」 断言してしまって、それで随分とすっきりした。 これは夢だ。でなければ、こんな不条理なことが起こるはずもない。 「第一、この頃の俺ってもっと傷だらけだったし」 などと呟きつつ、服の裾を引っ張って自分の体をあちこち眺め回していると、どこからか賑やかな声が聞こえてきた。 「あっ、いたいた! ラウルさーん」 甲高い声に振り返り、目を丸くする。 「エスタス!?」 生垣の向こうから手を振っていたのは、なんとエスタスだった。彼もまた十歳前後に縮んでしまっているが、鮮やかな赤毛とキラキラした瞳は変わっていない。 「こんなところにいたんですねえ? 探しましたよー」 その隣からぴょこんと顔を出したのは、やはり小さくなったカイト。そばかすの浮いた顔には、なんと眼鏡がない。それでも神官衣はそのままで、その不均衡さがなんとも可笑しかった。 この二人が出てきたということは、もしや……、と辺りを見せば、彼らの後ろ、大きな噴水に隠れるようにして、褐色の肌の少女がこちらを窺っている。 「みつかった」 鮮やかな彩色の外套に、髪に挿した鳥の羽。何よりその言動は紛れもなくアイシャのものだ。 彼ら三人がいる場所は、どうやら薔薇園のようだった。生垣で隔てられたこちら側が綺麗に刈り込まれた木々で構成されているのと異なり、あちら側では色とりどりの薔薇が咲き乱れ、むせ返るような芳香がここまで漂ってくる。 「ここ、綺麗ですよねー。こんな薔薇園、見たことありませんよ」 「みず。きらきら、きれい」 「エスタインの王宮にこんな感じの噴水がなかったっけ? でもまあ、こっちの方が――」 すっかりこの状況を楽しんでいる風の三人に呆れていると、どこからか軽快な足音が聞こえてきた。 「あ、こんなところにいたんですか?」 やってきたのは、何故かいつもと変わらない姿のマリオだった。一体どういう基準で縮んでいるのだろう、と首を傾げていると、金髪の少年はにんまりと、人の悪い笑みを浮かべてみせる。 「ほら、あっちでおチビちゃんが待ってますよ」 その喋り方はマリオのものではなく、その父親のもの。そう思ってよくよく見てみると、なるほどマリオとは多少、顔の造形が異なっている。 「村長、あんたまで……」 「随分可愛らしい格好にしてくださって、ありがとうございます、と言うべきですかね?」 苦笑を浮かべる村長に、肩をすくめて答える。 「んなこと言われてもな。第一、あいつらもそうだが、あんたの子供時代なんて知りっこないだろ」 彼らと知り合ったのはほんの一年前。それ以前の姿など知る由もない。ということは、ここにいる彼らの姿は、ラウル自身が捏造したものということになる。 (となると、やっぱり俺のせいか?) しかし、見ている当人の思惑などお構いなしに展開するのが夢というものだ。 (それでも、見ているのは俺自身なんだし、だけど俺はここにいるし……) 思わず真剣に考え込むラウルの袖を引っ張って、村長はにっこりと笑ってみせた。 「それはそうとラウルさん。ほら、おチビちゃんがあそこで待ってますよ」 「え?」 彼が指差しているのは木立の向こう、緑に半ば埋もれるようにして佇む獅子の像。その背中にまたがってきゃっきゃと笑い声を上げている金髪の少女は、なぜか一人だけいつもの姿で手を振っている。 「らう〜!」 嬉しそうに叫んで、ぴょんと像から飛び降りる少女。そして一目散にこちらへ走ってきたかと思うと、いつものように勢いよく飛びついてきたではないか。 「うわわわわ」 予想以上の衝撃に、ひっくり返りそうになる。それでも何とか踏みとどまって、ラウルはやれやれと息をついた。 「お前なあ……」 「あは、らう、ちっちゃーい♪」 「わっ、馬鹿! 登るな潰れるっ!」 面白そうによじ登ってくる少女を引っぺがしながら、改めて回りを見渡す。 いつの間にか、辺りは迷路のような様相を呈していた。生垣は頭を越えて遥かに高く、道は曲がりくねって先が見えない。 「あれ、おかしいな。さっきまでこんなのなかったのに」 「らう、ここ、どこぉ?」 「さあ……」 エスタス達のいた薔薇園は影も形もなく、すぐ後ろにいたはずの村長の姿もどこにも見えない。二人の後ろには延々と続く緑の迷路。そして目の前にも、同じ光景が広がっている。 「とにかく、進もう」 「らうっ! めいろっ」 ここにいても埒が明かない。そう思って仕方なく歩き出したものの、迷路は思いのほか入り組んでいて、あっという間に迷子になった二人は、十字路の真ん中で途方に暮れてしまった。 「しまった、迷ったか」 そもそも、出口がどこかも分からないので、迷ったという表現は的を違えている気もするが、とにかくにっちもさっちも行かなくなって、その場に立ち尽くす。 「らう、どうする?」 「困ったなあ……」 湧き上がる不安。同じものを少女も感じているのか、繋いだ手をぎゅっと握り締めてくる。 と、どこからか甘い香りが漂ってきた。途端に少女が犬のようにくんくんと鼻を鳴らして、ぱあ、と顔を輝かせる。 「らう、あっち!」 そう叫ぶが早いか、ばっと駆け出していく少女。その足取りはいつになく軽やかで、まるで背に羽でも生えているかのよう。 「あっ、こら待てっ」 「おかしー!」 賑やかな笑い声を上げながら、少女は曲がりくねった緑の迷路を駆け抜けていく。慌てて追いかけるが、何故かいつまで経っても距離が縮まらない。 「くそっ、なんで追いつけないんだ!?」 ふと見ると、周囲の生垣がやけに高い。あれれと立ち止まってみれば、視界に入った自分の手が、やけに小さく見える。 「げ、また縮んだのか?」 生憎と今度は鏡になるものがなかったので、仕方なく両手を目の前にかざして、しげしげと見つめる。ぷくぷくとした、柔らかな手。先ほどよりも若返っていることは明白だ。 「いくつくらいになってんだ?」 呟いた声が笑ってしまうほど可愛らしくて、げっと顔をしかめる。しかしすぐに、遥か前方から、 「らうっ、おそーいっ!」 という声が響いてきたものだから、自身の年齢に関する言及は後回しにして、とにかく走り出した。 「くそ、なんだってまた……」 やがて、生垣が低くなってきて、周囲が見渡せるようになってきた。とはいえ見渡す限り緑の迷路で、そのあまりの広さに眩暈がしそうになる。 「こっちこっち〜!」 服の裾を翻し、迷路を駆け抜ける少女。いつの間に追いかけっこになったのか、からかうような声が無性に腹立たしい。 「くそ、このっ! まてって!」 躍起になって足を動かすが、その距離はいまだ縮まらない。 しかし思いがけず好機が訪れた。少女の進む道は、その先で行き止まりになっていたのだ。 「おい、行き止まりだぞっ!」 これで観念するだろう、と思いきや、少女は目の前に立ちはだかる障壁を見上げると、おもむろにたんっ、と地面を蹴ったではないか。 ふわ、と宙を舞い、いとも容易く生垣を飛び越える少女の姿に、しばし呆然とする。 「……なっ、こらおまえ、ずるいぞっ! 力は使うなっていつもいってるだろ!」 散々抗議するが、少女は生垣の向こうから賑やかな笑い声を響かせて、 「ここまで、おいで♪」 とまあ、いつになく生意気な口を利いたかと思うと、いずこかへと走り去ってしまった。 「あんのやろう!」 悔し紛れに地面を蹴飛ばし、別の道がないかと辺りを見回す。と、ふいに背後から、 「どれ、手を貸そうか」 「!?」 張りのある声に振り返った途端、生垣の向こうから延びてきた二本の腕にひょい、と持ち上げられる。 「なっ、わっ!?」 慌てふためいて犯人の顔を仰ぎ見たラウルは、次の瞬間素っ頓狂な悲鳴を上げた。 「なんであんたがここに出てくるんだ、くそじじいっ!?」 「わ、こら暴れるな、落ちるぞ」 じたばたもがくラウルを地面にそっと降ろして、男はそれはもう楽しそうに笑ってみせる。 「それにしても、随分と可愛い格好をしてるじゃないか」 黒装束に金の髪、穏やかな眼差しは黄昏時の空の色。見覚えはない。それでも、十分に懐かしい。 「だから……なんでてめえがここにいるんだよ? それになんだ、その若作りは!?」 さあ、と肩をすくめてみせるのは、紛れもなくユーク本神殿長ダリス=エバストその人。しかも出会った頃より更に若く、三十代前半の若々しい風貌をしているから驚きだ。 「なんだ、と言われても困るな。私もまさか、こんな格好で登場させられるとは思っていなくてね」 長剣を佩き、黒革の胸鎧をつけた神官戦士は照れくさそうに、短く刈り込まれた髪に手をやった。 「どうだ、男前だろう?」 「言ってろよ、くそじじい。しょーもない格好しやがって、何の真似だ?」 「何を言うか。私は若い頃、修行の旅と称してあちこちを遊び歩いてな……」 自分で「遊び歩いて」と言う辺りが、いかにも彼らしい。 「あのなあ……」 呆れて物も言えない。そう言いたげな息子に、ダリスはすい、と近くの東屋を指差した。 「お茶の用意が出来ている、座ったらどうだ?」 「酒の間違いじゃないのか?」 「そう言うな、たまには優雅に過ごすのもいいもんだ」 ほら行くぞ、と半ば強引にラウルの手を掴み、意気揚々と歩き出すダリス。お互いこんなに若い姿でいると、まるで本当の父親のようで、隣を歩かれるのが妙に気恥ずかしい。 「やめろよ気色悪い」 「何を言うか、たまにはこんなのも悪くないだろう」 辿り着いた東屋の屋根には、風見鶏ならぬ風見竜。白塗りの柱に蔓薔薇が巻きついて、円卓に柔らかな影を落とす。 そこには彼の言葉通り、お茶の用意が整えられていた。ほかほかと湯気の立つ茶器、そして真ん中に据えられた皿から立ち上る香ばしい香りに、急に空腹感を覚えて腹を押さえる。 「おっと、来たな」 ふと顔を上げて眼を細めるダリス。その視線の先に、こちらへ駆けて来る二つの人影があった。 「じぃじ♪」 手にした花をぶんぶん振りながら駆けて来るのは、先ほど見失った金髪の少女。あっという間に二人の前までやってきた少女は、ぴょん、とダリスに飛びついていく。 「はいっ、おはなっ!」 「ああ、ありがとう」 仲睦まじい二人の様子に、言いようのない違和感を感じる。何故だろう、と首を傾げていると、軽やかな足音が響いてきた。 「 !」 竪琴をかき鳴らしたような、不思議な声。え、と振り返れば、透き通るような微笑みがそこにあった。 「あんた――」 問いかけようとしたが、何故か言葉が出ない。 (あれ、なんでだ、えっと――) 言うべきことはたくさんあるはずだ、例えば―― (……なんだっけ?) 唐突にすこん、と疑問の本文が抜け落ちて、「どうにも腑に落ちない感じ」だけが胸に残る。それもすぐに、茶器から立ち上る湯気の如く、跡形もなく消えてしまった。 「らうっ! おかしっ! おちゃっ!」 きゃっきゃとはしゃぐ少女。その手から花を受け取ったダリスが、素朴な野の花を机に飾る。 「ほら小僧、ぼーっとしてないで、茶を注いでくれ」 「あ、ああ……」 はっと我に返り、銀製の茶器を取り上げる。 (そうだ。これから午後のお茶にするんだっけ。じじいと、チビと、それと――) それぞれの茶碗に茶を注ぎながら、まじまじとダリスの傍らに立つ人物を見つめる。何故だろう、日差しが眩しくて、その顔を見ることが出来ない。ただ、翠緑色の髪がそよ風に揺れて、まるで新緑の森がざわめいているようだ、と思った。 「何を摘んで来たんだ?」 ダリスの問いに、彼女はすい、と前掛けを持ち上げてみせる。そこに隠されていたのは、つやつやの木苺。それを白魚のような指で一つずつ摘んでは、焼き立てのパイの上に飾り付けていく。 「わぁっ、おいしそうっ!」 「こら、手ぇ出すなっ! ほら座れって」 涎を垂らさんばかりの少女を椅子に座らせれば、心得たように伸びてきた手が、その胸元に優しく布をあてがう。 「お前はこぼすからなあ」 にやにやと笑っていたら、すいと目の前に布を差し出された。そして受け取る様子がないことを悟ると、彼女は素早く後ろに回りこみ、広げた布を首に巻きつけにかかる。 「わ、よせよ子供じゃないんだからっ!」 慌てて逃げ出そうとしたが、ほっそりとした腕に絡め取られ、叶わなかった。いい匂いのする白い腕にどぎまぎしているうちに布をあてがわれ、首の後ろで結ばれてしまう。 「はは、似合ってるぞ小僧」 差し向かいに座ったダリスのからかいの声に抗議しようとした矢先、切り分けられたパイを目の前に差し出された。林檎のパイにふわふわのクリームと木苺を添えて。理想的な組み合わせに、食べる前から頬が緩む。 「おいしいっ! るふぃーり、これ、だいすき〜♪」 早速がっついている少女を横目に、まずはお茶を一口。芳醇な香りを味わってから、おもむろにパイを――。 と、真横からただならぬ気配を感じて、咄嗟に皿を引き寄せる。 「おまえ、もう食ったのか!?」 見れば案の定、己の取り分をあっという間に平らげた少女が、虎視眈々とこちらの皿を狙っていた。 「らうっ!」 緑の双眸を煌かせ、ばっと飛び掛ってきたのは、なんと金色の竜。突如迫ってきた巨大な顔に、思わず椅子を蹴倒して後ずさる。 「わっ、ちょっと待て――!!!」 『らう!』 どん。 「ぐぁっ」 背中に走った衝撃に、呻き声が唇から漏れる。 「って、あれ?」 ぱっと目を開ける。見えたのは薄暗い天井と、壊れた鎧戸の隙間から差し込む眩い光。そして、寝台から滑り落ちた布団と、そこから覗く小さな足。 「あいつっ!!」 自身が床の上に転がっていることに気づいたラウルは、ばっと立ち上がって眉を吊り上げた。 「……このくそチビ!!」 ここ数日、襲撃がなかったので油断していた。小さな侵略者はラウルの寝台にでーんと寝転がって、ふにゃふにゃと寝言を呟いている。 「お前、何度言ったら分かるんだ!」 思わず怒鳴りつけるが、少女はまるで起きる気配がない。ならば実力行使、とばかりに腕を伸ばしかけて、ふと空っぽの寝台に目をやった。 村人が作ってくれた小さな寝台。その枕元に転がっていた一冊の絵本に、ああと呟く。 「これか」 腕を伸ばし、絵本を取り上げる。美しい彩色の施された表紙には、『庭園』の文字。 先日レオーナのところから借りてきたそれが、少女の最近のお気に入りなのだという。昨夜、寝る前に読んでくれとせがまれて、仕方なく読み聞かせたのだ。 「それで、あの夢か」 不思議な庭園に紛れ込んだ子供が、迷路のようなそこで様々な人と時を越えた出会いを果たす。そんな内容だったはずだが、途中で彼女が寝てしまったため、結末を知ることが出来なかった。まあ、あの夢ほどハチャメチャなものでないことだけは確かだろうが……。 「やれやれ」 苦笑交じりのため息が漏れる。それにしても破天荒な夢だった。三人組はともかく、なぜあの養父までが若返っていたのか。それにあの――。 「……誰だっけ?」 もう一人、誰かに会ったような気がしたが、今となってはよく思い出せない。かろうじて思い出すのは、そのほっそりした白い腕と、それから……。 ふいに馬鹿馬鹿しくなって、頭を振る。 「夢は夢だ」 起きてしまえば、光の中に儚く溶けてしまうもの。それは、一時の幻。手を伸ばしたところで、掴むことなど出来やしない。 それよりも今、ラウルが掴むべきものは、暖かな毛布もしくは上着であろう。 「うぅ、寒っ」 まだ少し眠たかったが、この時間からでは二度寝を決め込むのは無理だ。仕方なく上着を羽織り、居間の暖炉に火を入れるべく移動しかけて、ふとあることを思いつく。 「せめてもの仕返し、だ!」 壊れかけた鎧戸を一気に解放し、冷たい空気と清廉な朝の光を寝室へと呼び込む。 「起きろ、チビ――!!」 「ふぇっ!?」 奇妙な声を上げて、ばっと飛び起きる少女。そして、してやったりと笑うラウルをきょとん、と見上げると、太陽と見まごうばかりの笑顔を覗かせた。 「らうっ! おはよっ!」 その眩しさに思わず目を細め、次いで苦笑を浮かべる。 「ちぇ、全然堪えないのな、お前」 「こたえる、なに?」 不思議そうに首を傾げる少女に何でもない、と手を振って、ラウルは居間へと続く扉を開けた。 「さあ、とっとと顔洗って来い! 飯の用意するぞ」 「らうっ! るふぃーり、おなかすいたっ!」 不可思議な夢をくぐり抜けて。 同じくらい不可思議な日常が、今日もまた幕を開ける。 |
何度も書き直したので、色々なバージョンが存在する(笑) 「庭園」。実はこれでほぼ決定稿、のつもりだったんですが、どうにも長いのと、最後に登場するお方を上手く書き表すことが出来なくて、没になりました。 |