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一輪の花
 北国の春は遅い。冬枯れの庭園からはようやく雪が消えたものの、水墨画のような淡い色合いのまま、ひっそりと息を潜めている。
 とはいえ、庭師にとってはこれからが忙しい。施肥や剪定、害虫駆除から植え替えまで、花の季節を前に、やることが山積みだ。
 公務の息抜きだと称してやってきた若き女王は、そんな地道な作業を、飽きもせずに見つめている。
「見てたって面白くないだろう? 花が咲いてから見に来ればいいのに」
「何を言ってるの。どんな時だって、この庭は美しいわ」
 枯れた噴水の端を辿りながら、ふわりと裾を翻して笑う。
「私は好きよ」
 色を失った庭に咲く、艶やかな笑顔。
 ――そう。君こそが、僕の世界を鮮やかに染め上げる、一輪の花。
Twitter300字ss」 第三十二回「色」
 こちらはツイッター上で月一開催されている「Twitter300字ss」に出したもの。
 「色」というテーマを見た瞬間に、「モノクロの世界に一輪だけ咲く赤い薔薇」の様子が浮かびました。
 彼女らの暮らすライラ国は北大陸最北端の国。春は遅く、夏は短く。一年の殆どが雪で覆われる、厳しい環境です。
2017.05.15


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