冷酷無比な《氷雪の女王》。その冷笑を目にした者は一様に凍りつき、ただ慈悲を願うしかない――。
そんな噂が流れるのも無理はない。即位したその日に大臣数人の首を挿げ替え、何百人もいた使用人を大量に解雇した。怜悧な美貌とは裏腹に、その魂は質実剛健そのものだ。
「無用なものはとことん省く。我が国にそんな余裕などない」
そんな彼女が唯一省こうとしない無駄。それこそがこの小さな庭と、庭師である僕。
「ジーナ。そんなにくっつかれたら剪定が出来ない」
「いや」
庭では「陛下」と呼んではいけない。そういう取り決めだ。
だから、氷雪の女王はここにはいない。
ここにいるのは、小鳥の行水を見て無邪気に笑う僕の幼馴染。
僕の、大切な人。