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[3]


 気がつけば、そこは光に満ちた空間だった。
(……あれ?)
 影すらも焼き尽くすほどの、眩い光。そこは果てすらも見出せぬ、ひたすらに白い世界。
(なんで俺、こんなところにいるんだ)
 空間を埋め尽くすのは、熱のない不思議な光。踏みしめているのは固い地面のようでもあり、柔らかな雲のようでもある。
(眩しいな)
 目を腕で覆っても、なお押し寄せてくる光。少しでも気を緩めれば、光そのものに飲み込まれてしまいそうな―――。
(ここにいちゃいけない)
 そんな思いに駆られて、とにかく歩き出す。不思議と、どんなに歩いても息は乱れず、空腹を覚えることもなかった。
 歩いても歩いても、一向に変化しない景色。足音さえも聞こえず、自らの呼吸音だけが響くのみの、そこはまさに静寂の世界だった。
(つまらねえな)
 ぼんやりとそんなことを考えながら、黙々と歩を進める。
 そうして、どれほど歩き続けたのだろう。一週間も歩いた気もするし、ほんの数分のことにも思える。
「……ああ、もう!」
 漸う嫌気が差して、ぴたりと立ち止まる。それでも、目に映る景色に何ら変化はない。
「ったく、どこまで歩けばいいんだよ」
 そうぼやいて、はたと気づいた。
 自分は今まで、何をしていたのだろうか? そして、今どこへ向かっているのだろう?
 いや、それより何より―――
「どこだよ、ここ」
 そう呟いた、その時。
 ―――『声』が聞こえた。

 それは子供のような、それでいて落ち着いた声。
 声は告げる。高らかに、厳かに。―――からかうように。

『起きんか、馬鹿者』

「なっ―――!!」

 ぼやけていた意識が、一気に覚醒する。
 声の主を探して辺りを見回した途端、急速に滲んでいく視界。
(なんだ……っ?!)
 必死に目を凝らせば、眩い光の彼方に黒い外套が翻ったのが見えた、気がした。
 そして―――
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