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空の涙
 今日もまた一つ、墓が増えた。
 救貧院で看取られた、身寄りのない爺さんの墓だ。
 誰も本名を知らなかったから、簡素な木の墓標には通称の『針鼠』とだけ彫った。
 弔問客のいない葬儀はあっという間に終わってしまって、やる気のない神官どもは「あとは頼む」とだけ言い残し、さっさと引き上げていく。
 弔いの鐘が鳴り響く中、吹き抜ける風に雨の気配を感じて天を仰げば、はたはたと雨粒が落ちてきた。
 掘り起こした土を撫で、墓標を濡らしながら、大地を静かに染めていく雨。
 ――ああ、まるで空が泣いているようだ。
 どこの誰とも知らない人間のために、空が泣いている。

 いつか、俺のためにも泣いてくれるだろうか。
 誰に惜しまれずとも、この空だけは。
Twitter300字ss」 第五十一回「涙」
 ラウルが神殿で下働きをしていた時代の小話。
 神官見習いになる前は、墓地の掃除や墓穴掘りなど、もっぱら外の仕事をやらされていたようです。
 貧乏人の葬儀となるとあからさまに手を抜く神官もいるようで、こんな光景もしょっちゅう目にしていた模様。
 後に神の声を聞いて神官となったラウルですが、こういう幼少期のやるせなさや悔しさが、神に目をつけられる(言い方!)素地となったのではないかと思います。 
2019.03.02


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