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 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまうもので。
「さて、そろそろお開きにしましょうか」
 村長がそう言い出した頃には、夜はとうの昔に更け、むしろ明け方にほど近い時間になっていた。
「あら、もうこんな時間? ガーディ、怒ってるかなー」
「なんだか、お祝いに来たんだか飲みに来たんだか分からなくなっちゃったわね」
「これから帰るんじゃ、向こう着いたら朝かしら。あー、仕事さぼっちゃおうかなー」
 慌てて帰り支度をする者、片づけを率先して手伝う者、最後まで料理を貪っている者――。一気に慌しくなった店内で、いつの間にか持ちきれないほどになった贈り物を一つ一つ確かめていたら、レティシアにもらった黒い機械をうっかり取り落としてしまった。
 慌てて拾い上げ、壊れていないか確認しようとして、はたとあることを思いつく。
「なあ。この機械、写真ってヤツが取れるんだってさ。記念に一枚、みんなでどうだ?」
「あら、いいわね!」
「しゃしん、ってなに?」
「ああ、聞いたことがあるな。一瞬にして精密な肖像画を作り出す機械だろう?」
「私は空間を複写するものだと聞きましたが……」
「それは素晴らしい! 一体どんな構造になってるんでしょう」
「ほらほら、並んでならんで!」
 みんなが暖炉の前に並んでいる間に、先ほど教えてもらった操作方法を確認する。といってもやり方は簡単だ。フィルムを入れて、釦を押すだけ。それだけで「写真」ってやつが撮れるってんだから、ものすごい発明品だ。
「でも、誰が撮るんです?」
 そういや、そうだ。どうしよう、と考え込んでいると、レティシアがぱちん、と片目を瞑ってみせた。
「あたしに任せて!」
 そうして彼女がすい、と指を動かせば、その「インスタントカメラ」なる機械がふわり、と宙に浮く。
「なんと、あなたも魔法使いだったんですか!?」
「うーん、似たようなものかな? ほらほら、もうちょっとみんな真ん中に寄って」
 そうして、やれ誰々の顔が重なって見えない、そこの端はもうちょっと詰めて、などとやっていると、背の順で前に追いやられたカイトが小声で聞いてきた。
「ラウルさん、おちびちゃんは起こさなくていいんですか?」
 通常、日の入りと同時に寝こけるチビだったが、今日は必死に頑張って、日が暮れてからも大分長く起きていた。それでも限界が来て店の隅で丸くなったのが、もう数刻前の話だ。
「いや、あいつはああなったらテコでも起きないからな。ま、しょうがないだろ」
「そうですね」
「はい、それじゃ撮るよー。はい、チー――」
 その瞬間。
 ぱちり、と目が開く音が、聞こえた気がした。
「らう〜っ!!」
「わっ、こらチビ、やめろっ――!!」

 パシャッ。

 時が止まったような店内。妙な沈黙の中、ジーッと出てくるフィルム。
 全員が固唾を呑んで見守る中、浮かび上がってきたのは――。


「お・ま・え・なーっ!!」
「らうっ、ごめんなさ〜いっ」

 店内を縦横無尽に逃げ回るチビを追い掛け回せば、あちこちで沸き起こる笑い声。
「こら待てチビー!!!」
「や〜っ!!」

 どこまでも続く追いかけっこ。
 いつまでも変わらない笑顔。
 大切な、かけがえのない、それは俺にとっての――。

「やれやれ、結局こうなるのね」
「ま、いいんじゃないですか。平和な証拠ですよ」
「何はともあれ、おたんじょうびおめでとうございます、ラウルさん」

「めでたくねーっ!!」

Fin.
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