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第六章[8]

「村の外から変なのがっ!」
「南門まで来てるんだっ! 早く来てくれっ!!」
 広場まで全速力で走ってきたのは村の青年達。しかも揃って蒼白な顔色をしている。
「どうしました!? 落ち着いて話して下さい」
 村長の言葉に、彼らは口々に訴える。
「か、怪物が!」
「死人です、死人の集団が押し寄せてきてるんですよ!!」
 その言葉は、広場に集う全員の顔から血の気を奪った。
「なんだって!?」
「どういうことよ?」
「落ち着いて下さい!」
 一気に騒然となった広場に、村長の声が響いた。いつもの彼からは想像もつかないほど覇気のある声に、一気にざわめきが引いていく。それを逃さず、彼は続けた。
「ここを動かないで! ドニーズ様、守備隊をお借りしてよろしいですか」
「あ、ああ」
「それでは守備隊の方、申し訳ありませんがこの場をお願いします」
 事態が飲み込めずに慌てふためいているドニーズには構わず命じる村長。その声には逆らい難い迫力があった。突然のことに呆気にとられていた守備隊の面々が、その声に弾かれるように動き出す。
 その隣では姉妹が動き出していた。
「ユラ! あれお願い」
「ええ、アル」
 そんな短いやりとりのあと、ユリシエラが杖を掲げて何事か呪文を唱え、ざわつく広場の中央に複雑な紋様の魔法陣を描き出す。そして、
「さあ、皆さん。ここの中なら安全ですわよ〜。早く入って下さいな」
 こんな状況でものんびりした声に導かれて、村人達が不安げな顔で魔法陣へと足を踏み入れていくが、中には困り果てた顔で、
「でも、まだ家に子供達がっ……!」
「うちのばあさまも、まだ中にいるんだ」
 と訴えている者がいた。それを聞いたアルメイアがそばにいた守備隊を叱り飛ばす。
「ほら、あんた達! 家に残ってる人達を早く連れてくるのよ! 何ぼさっとしてるの!」
「は、はい!!」
 数人の守備隊が家々へ向かって走り出す。他の者達は広場に散開し、いまだ見えぬ敵に備えて槍を構えた。その顔には一様に、不安が貼りついている。謎の卵を接収しに来ただけなのに、まさかこんな事態に遭遇するとは思っていなかったのだろう。
「わわ、私はその、あの……」
 一人取り残されたドニーズがあたふたと立ち往生をしているのを見て、えいっと魔法陣の中に蹴り飛ばすアルメイア。
「な、何をなさいますっ!」
 魔法陣の中に尻をついて抗議するドニーズに、ふん、と鼻を鳴らす。
「何も出来ないんだったらどいてなさい! 邪魔よっ!」
「そんな……」
「ご安心下さい。この魔法陣の中にいる限り、私がお守りしますわ」
 魔法陣の中央で、杖を構えたままのユリシエラが力強くそう請け負い、その言葉に村人達が安堵の声を漏らした。
 村人達の安全がひとまず確保されたのを見届けて、村長がラウルを振り返ってくる。
「ラウルさん、一緒に来て下さい!」
「ええ!」
 先ほど報せに来た青年の言葉。「死人の群れ」というのが気になる。村長と共に走り出そうとしたラウルの後を、何も言わずにエスタスとカイト、そしてどこにいたのやらアイシャが続こうとした。その時。
「おーい!!」
 今度は別の方角から声が飛んできた。見ると、北の方角から広場に向かって走ってくる人影がある。確か、ラウルの住む小屋に一番近い家の住人だったはずだ。よく取り立ての卵や野菜を持ってきてくれる、気さくな青年である。名はフリッツといったか。
 そのフリッツは息せき切って走りながら、こちらに向かって怒鳴っていた。
「ラ、ラウルさんの小屋から、煙が!」
「なんだって!?」
 その言葉に、ラウル達の顔色が変わった。
「え、でも小屋には……」
 誰もいないんじゃ、そう言おうとしたエスタスの言葉をラウルが遮って、鋭く囁いた。
「悪い、小屋を見てきてくれ。シリンがいるが、あいつ一人じゃ危なっかしい」
「シリン君が?」
「分かりました!」
「行こう」
 すぐさま、三人は小屋に向かって駆け出していった。その後姿を見送るラウルに、村長が声をかける。
「さ、ラウルさん!」
「ええ!」
 少し先で待っていた村長の言葉に頷いて、ラウルは駆け出した。その後ろを、今度はアルメイアが追いかけて来る。
「おい、あんたは……」
「守りはユラだけで大丈夫」
 だぶだぶの長衣の裾をからげて走りながら、アルメイアはにやり、と笑ってみせた。
「わたしは、攻撃魔法の方が得意なのよ」
「ったく、いい時に来てくれたな」
 苦笑交じりに囁くと、アルメイアは肩をすくめて答えてみせた。
「とんだ時に来ちゃったわ」

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