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第十章[2] |
そして。 戦いは、唐突に始まった。 広大な広場跡に刻まれた陣。ようやく完成し、その確認作業に余念がない平信者達の間で、突然大地が揺れ、炎が吹き上がる。 悲鳴が入り乱れる中、彼らは見た。武器を構え、自分達をしかと見据えて向かってくる者達の、力に満ちた瞳を。 たちまち繰り広げられる戦い。しかしそれは、余りにも一方的なものだった。平信者の多くは身を守る手段すら持たず、それでもただ闇雲に彼らに向かっていく。陣を守るために、そして悲願を成就させるために、まさに捨て身で立ち向かう黒装束の人間達。 中には、まだ年端も行かない少年もいた。杖なしでは歩くことすらままならない老人もいた。 それでも、がむしゃらに立ち向かって行く彼らに、侵入者達はそれでも容赦せずに刃を向け、術を駆使していく。 「な、何者だっ……!」 見当外れの誰何を口走る信者に、ご丁寧に応える声。 「正義の味方、じゃないことだけは確かですね」 その言葉が聞こえたかどうか。尋ねた信者はすでに倒れ伏し、その体の下からは夥しい血が滲み出してくる。 「やれやれ、この年になると実戦は流石に堪えますね」 血に濡れた短剣を弄びながら、村長は倒れた男を一瞥して、にっこりと笑ってみせた。 「急所はちゃんと外してありますから、死にはしませんよ……やれやれ」 男はすでに気を失っている。その体をよいしょと飛び越して、いまだ続く戦いの場へと身を躍らせる村長。そのすぐ側にやってくる配下の者に、村長はこぼしてみせた。 「まったく、ラウルさんも無理な注文をするものです」 くれぐれも無益な殺生はするなと、ラウルは口酸っぱく彼に言ってのけた。皆殺しをするのが目的じゃない、と。ただ、立ち向かってくるものには容赦するなとも言った。それはなかなかに難しい注文だ。 「長、そのようなことを言っている場合では……!」 「分かってますよ。くれぐれも彼らを外へと逃さないように」 「はっ!」 そんな、血飛沫と断末魔が交錯する広場を横目に、影から影へ、人目を忍んで遺跡の奥、王城跡へと走る一団があった。 「こっちだ!」 先頭を走るのはシリン。彼の頭の中には、この王城内の地図が叩き込まれている。 「よし。気づかれないうちにとっとと忍び込むぞ」 ラウルの言葉に、続くエスタス達が答える。 「了解っ!」 崩れた階段を駆け上がり、枯れた噴水の横を通り抜け、白亜の柱が並ぶ王城の入り口へと、彼らはひたすらに突き進んだ。 |
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