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1.トクダネ!

新世暦140年 五の月四日 ローラ国西部・サーハル村

 やあ、かわいこちゃん。今日も決まってるね。ボク以外の男にそんな笑顔見せちゃ駄目だよ、たちまち夢中になっちゃうからさ。
 え? 朝っぱらから何をしてるのかって? こう見えてもボクは敏腕記者だよ、取材に決まってるじゃないか。
 特種は意外なところに転がってるものなのさ。市場の喧騒の中にも、旅人が行き交う酒場の片隅にも、それこそ、のどかな村の食堂にもね。
 というわけで、哀れなボクの腹を満たすためのご馳走を頼むよ。飲み物はいつもの――そうそう、蜂蜜入りの牛乳で頼むよ、かわいこちゃん。 
 さあて、彼女がボクのためにおいしい朝ご飯を用意してくれている間に、取材手帳の整理でもしようかな。
 次号は創刊五十号記念だからって、社長がやけに気合入れてるからねえ。敏腕記者のボクが張り切らないで、誰が張り切るって言うんだい?
 というわけで取材旅行なんて出てみたけど、エルドナから西の一帯はいたって平穏、事件といえばせいぜい、どこそこの羊が集団逃走したとか、謎の突風であちこち吹き飛ばされたとか、その程度なんだよねえ。
 このサーハルでも特に変わったことはなさそうだし、早いとこ次に行ってみるべきかなあ。
 おおっと、もう出来たのかい? ボクのために急いでくれた? なんて嬉しいんだ。感謝感激だよ!
 今日の朝ご飯もうまそうだ。産みたての卵、絞りたての牛乳! 都会にいては味わえない、素朴かつ至高の味わい! 今日も存分に堪能させていただこうじゃないか。
 おっと、勘違いしないでくれよ、かわいこちゃん。ここが田舎だとか、自分が都会派だとか、そんなことが言いたいんじゃないんだ。この村は、都会の喧騒に荒んだボクの心をそっと撫でてくれる。君にはなんでもないことが、ボクにとっては最高の癒しなんだ。分かるかい?
 見てくれよ、この卵の黄身の美しいこと! 社長に見せたいくらいだ。ああ、うちの社長ってのが大の卵好きでね、それこそ一日三食、下手すりゃおやつまで卵が欠かせないと公言して憚らない、真の卵好きなのさ。

 え? それなら変わった卵があるって?
 聞かせてくれよ、かわいこちゃん。ボクの長年の勘が言ってるよ。これはまさに、トクダネの予感だってね。


たんぽぽ新聞社 社員名簿

ベンジャミン=ロウ(草原人・男・21歳・アホ毛)

 たんぽぽ新聞社きっての敏腕記者(自称)。
 伊達男を気取っており、女性相手の聞き込みで失敗したことはないと自負しているが、実際には子ども扱いされているだけということにまるで気づいていない。

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