やあ、かわいこちゃん。今日も決まってるね。ボク以外の男にそんな笑顔見せちゃ駄目だよ、たちまち夢中になっちゃうからさ。
え? 朝っぱらから何をしてるのかって? こう見えてもボクは敏腕記者だよ、取材に決まってるじゃないか。
特種は意外なところに転がってるものなのさ。市場の喧騒の中にも、旅人が行き交う酒場の片隅にも、それこそ、のどかな村の食堂にもね。
というわけで、哀れなボクの腹を満たすためのご馳走を頼むよ。飲み物はいつもの――そうそう、蜂蜜入りの牛乳で頼むよ、かわいこちゃん。
さあて、彼女がボクのためにおいしい朝ご飯を用意してくれている間に、取材手帳の整理でもしようかな。
次号は創刊五十号記念だからって、社長がやけに気合入れてるからねえ。敏腕記者のボクが張り切らないで、誰が張り切るって言うんだい?
というわけで取材旅行なんて出てみたけど、エルドナから西の一帯はいたって平穏、事件といえばせいぜい、どこそこの羊が集団逃走したとか、謎の突風であちこち吹き飛ばされたとか、その程度なんだよねえ。
このサーハルでも特に変わったことはなさそうだし、早いとこ次に行ってみるべきかなあ。
おおっと、もう出来たのかい? ボクのために急いでくれた? なんて嬉しいんだ。感謝感激だよ!
今日の朝ご飯もうまそうだ。産みたての卵、絞りたての牛乳! 都会にいては味わえない、素朴かつ至高の味わい! 今日も存分に堪能させていただこうじゃないか。
おっと、勘違いしないでくれよ、かわいこちゃん。ここが田舎だとか、自分が都会派だとか、そんなことが言いたいんじゃないんだ。この村は、都会の喧騒に荒んだボクの心をそっと撫でてくれる。君にはなんでもないことが、ボクにとっては最高の癒しなんだ。分かるかい?
見てくれよ、この卵の黄身の美しいこと! 社長に見せたいくらいだ。ああ、うちの社長ってのが大の卵好きでね、それこそ一日三食、下手すりゃおやつまで卵が欠かせないと公言して憚らない、真の卵好きなのさ。
え? それなら変わった卵があるって?
聞かせてくれよ、かわいこちゃん。ボクの長年の勘が言ってるよ。これはまさに、トクダネの予感だってね。