シールズ神聖国の首都シールズディーンにある、ここルース分神殿は、あまり大きい神殿じゃない。
 でも、図書館だけは他の分神殿に負けない位の蔵書量を誇ってる。
 とはいえ、分かりやすい授業のすすめ方なんて都合のいい本はやっぱりないのね。
 やっぱり、ものを教えるのって大変。自分の中では分かってることを整理して分かりやすく伝えるのがこんなに大変だなんて。
 ……やっぱり、私って先生に向いてないのかしら?

「リーザ先生、いるー?」

 あら、リック君。どうしたの? それに、よく私がここにいるって分かったわね?

「レラ先生に聞いたら、図書館にいるって言われたんだ。ねえ先生、質問があるんだけどさ」

 なあに? 個人的な質問はお断わりよ。

「そうじゃないよ! あのさ、神殿について教えてほしいんだ。本神殿とか分神殿とかってどう違うの?」

 ああ、そういうことね。リック君のご家族で、神殿に関わってる人はいないの?

「いないんだ。父ちゃんは職人だし、母ちゃんは精霊使いで、神殿とは無縁だって」

 そうなんだ。それじゃ、教えてあげる。じゃあそこに座って。先生も今降りるから。

「よくそんなズルズルした格好で梯子に昇れるね。尊敬しちゃうよ」

 そんな事で尊敬されても……。まあいいわ。じゃあお話しましょう。神殿についてね。

 まず、神殿は大きく分けて三つあるの。一つは本神殿。これは、その宗派の一番大きくて、一番偉いところって思えばいいわ。全体をまとめる役割を持ってるところね。
 二つ目は分神殿。これは世界各地にある神殿のこと。本神殿の子供みたいなものね。
 最後は、神殿とも呼べないような小さなもの。ほこらとか、礼拝所みたいな小さな小さなところね。無人の場合もあるわ。

 本神殿は各宗派に一つずつしかないの。だから十しかないことになるわね。女神様達を祭る本神殿は、女神様が作り出した各大陸にあるわ。だからここケルナ大陸にはケルナ本神殿があるの。男神様達を祭る本神殿は、対になっている女神様の作り出した大陸にあると言われているけど、あまり一般的に知られていないわね。

「じゃあ、えっと……ケルナ様と対神のセイン様の本神殿は、この大陸にあるってこと?

 そうよ。確か……そう、革命前のヴェストア帝国の領地内にあったはずよ。でも革命戦争の時に破壊されてしまって、それ以来復興したって話は聞いてないわね。
 そうそう、本神殿は別に首都になければいけないなんて決まりはないの。ルース本神殿は、ルース大陸のレイド国にあるシルトという町の外れにあるしね。

 分神殿は、ある程度修業を積んだ神官、まあ大抵は高司祭の位に登りつめた人が、それまで学んでいた神殿から独立して新たにつくる、というのが定番ね。今ではそんなに頻繁にはないけど、昔はそんな具合で分神殿がどんどん作られていたんですって。ほこらなんかは逆に、近くに神殿がないところでその神様を崇めている人達が自分で作ることが多いの。だから、祭られている神様の像が全然似てなかったりするらしいわよ。

 ある程度の町なら大抵十神全ての分神殿があると思っていいでしょう。このシールズディーンにも全部揃ってるし。ただ、時の神様ルファスの分神殿は鐘つき堂だし、ユークの分神殿は墓所を兼ねてるし、『分神殿』として認識されてないものが多いわね。
 小さい町や村だと、あるのはその大陸で一番信仰されている神様の分神殿位しかないと思うわ。あとは、その土地にあった神様ね。
 例えば、フォルト穀倉地帯の村なんかだったら、農業に関係するルース様やアイシャス様、命の源であるガイリア様なんかの分神殿がある場合があるわ。あとはこの大陸で一番信仰されているケルナ様の分神殿ね。
 逆にシュトゥルム公国みたいなところなら、ケルナ分神殿の他に、冶金に関係するパリー様や、礼節を重んじる国だからクストー様なんかの分神殿が多いというわ。
 あとは、そうね。分神殿同士の交流っていうのはあるけど、そんなに密接な繋がりはないわ。でも協力は勿論するわよ。ただ、基本的に分神殿は単独で活動するわね。

「ふーん。そうなんだ」

 例えばルース分神殿の場合、今年は不作になるっていう予想が出たら、分神殿通同士連絡を取り合って、もし凶作だった場合の食料の配分なんかを取り決めたりするし、町を守るセイン分神殿の警備隊なんかは、他の町との連絡網をしっかり作って、何かあった場合には連携して事に当たるの。

「ねえ、先生はなんでルース神官になろうと思ったの?」

 前も言ったかもしれないけど、私もこのルース分神殿の教室に通ってたの。その時私に勉強を教えてくれた先生がとてもいい人で、この人みたいになりたい! って思ったのね。それで、ルース神殿に入信して修業をしたの。
 そうしたら、ある日ルース様のお声を聞いたのよ。
 神官になるっていうのはそういうこと。神様の声を聞いて初めて、神聖術を使えるようになるの。
 だから、どんなに神様を信じていても、神様の声を聞いていない人は神官にはなれずに、ずっと一般信仰者、つまり信者のままということになるわ。
 神官が修業を積んで、難しい神聖術を使えるようになると、位が上るの。
 私は一番位の低い神官。その上が侍祭、その上が司祭、高司祭、大司祭っていう風にね。大司祭様っていうのは、大抵本神殿の神殿長を務めてるわ。分神殿の神殿長は大抵高司祭様か司祭様ね。神殿内で一番位の高い方が大抵神殿長になるの。
 司祭様くらいになると、神の声が聞こえるだけじゃなくて、直接神様と会話が出来るようになるんですって。でもごく稀に、だそうだけど。神様もお暇じゃないもの、仕方ないわよね。
 高司祭様や大司祭様になると、その神様をお呼びすることまで出来るようになると言われてるわ。

「へぇ〜。色々あるんだね」


 そうよ。……こんなところだけど、分かった?

「うん、ありがとな、先生!」

 どういたしまして。じゃあ、もうそろそろ外も暗くなってきたし、途中まで一緒に帰りましょうか。

「うん! なんたって、先生一人じゃ危なっかしくて見てらんないもんな」

 ひどい言われようね。私、これでも二十歳なんだけど。

「いいっていいって。さ、帰ろう!」

 はいはい。じゃ、本を片付けてくるからちょっと待っててね。

おわり