怪しげな露天商から、『幻影燈』なるものを手に入れた。
なんでも、忘れてしまった景色を映し出してくれる、特別な一品だという。
手順書に従い、庭に天幕を張って夜を待つ。
日付が変わるその瞬間、内部のランプに火を点せば、青い光が天幕を埋め尽くした。
青の奔流 むせ返る潮の匂い
銀色の群れ ヒレを翻して泳ぐ魚たち
揺れる水面は遙か遠く 射し込む光が水底を照らす
ああ――これはきっと、遺伝子に刻まれた海の記憶
誰もが忘れてしまった、太古の景色――
「……ただの幻灯機を魔法の品だなんて、詐欺もいいところだな」
「なぁに、元を辿ればみんな魚だ。嘘は言ってないさ。誰もが抱く原風景。忘れてしまった景色。どうだい、浪漫に溢れてるだろう?」