誰もいない街の、誰もいない大通りを、生ぬるい潮風が通り抜けていく。
かつては小高い丘の上にあった道路も、今は間近に海が迫り、潮の匂いはきつくなる一方だ。
住む者のいなくなった建物は風化して骨組みが露わになり、乗り捨てられて錆びついた自動車は、今や鳥達の住処だ。
かつての喧噪が嘘のように、風の音だけが響く。
学校へと急ぐ子供達の笑い声も、薄紅色に染まる桜並木も、夏の夜に灯る提灯も、舞い踊る枯れ葉も、降り積もる雪も――すべて時の彼方へと消えて、もう戻らない。
やがて、誰もいなくなった街をすっぽりと包み込んで、風は微睡む。
寄せては返す波音を子守歌に、長い長い夢を見る。
かつてここに存在した営みを、夢に見る――。