彼はあまりに人の良い漁師だった。
人が良すぎて、網にかかった人魚を見逃すどころか、怪我の手当をして飯まで食わせる始末。
呆れ果てた人魚は、恩を返すためと言い張って、押しかけるようにして彼に嫁いだ。
彼は十日に一度、隣村まで魚を売りに行き、野菜や米を買ってくる。
ところが今日、彼が持ち帰ってきたのは、色鮮やかな反物だった。
「綺麗だろう。お前の鱗にそっくりだ」
「お前さま。これは波の柄ですよ」
寄せては返す青波の文様は、未来永劫の平穏を願うもの。
「どれ、これでお前さまの着物を仕立てましょう」
「なんだ、お前に似合うと思ったから買い求めたのに」
「私には自前の鱗がありますゆえ」
こういうのをお揃い、というのでしょう?