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青海波
 彼はあまりに人の良い漁師だった。
 人が良すぎて、網にかかった人魚を見逃すどころか、怪我の手当をして飯まで食わせる始末。
 呆れ果てた人魚は、恩を返すためと言い張って、押しかけるようにして彼に嫁いだ。
 彼は十日に一度、隣村まで魚を売りに行き、野菜や米を買ってくる。
 ところが今日、彼が持ち帰ってきたのは、色鮮やかな反物だった。
「綺麗だろう。お前の鱗にそっくりだ」
「お前さま。これは波の柄ですよ」
 寄せては返す青波の文様は、未来永劫の平穏を願うもの。
「どれ、これでお前さまの着物を仕立てましょう」
「なんだ、お前に似合うと思ったから買い求めたのに」
「私には自前の鱗がありますゆえ」
 こういうのをお揃い、というのでしょう?
Twitter300字ss」 第七十八回「波」


 青海波、最初に見た時は鱗の模様だと思ってて(^-^) そこからふと思いついたお話です。
 当初は「あなたの平穏を願って、一針一針丁寧に着物を仕立てましょう」のような締め方をしようと思っていたのですが、なぜか着地点が「ペアルック!」になりました\(^_^)/
2021.08.07



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