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本の姫
 幼い姫が幽閉されたのは城の書庫。
 ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。
「ああ、つまらない」
 すべては書物が教えてくれた。この世の成り立ちや沢山の動植物。異国の言葉や風習。
 喜びや悲しみ、怒りや憎しみといった感情さえも、物語から学び取った。
 頁をめくるたびに、新たな世界が拓かれる。その瞬間がたまらなくて、眠る間も惜しんで読書に励んだ。
 けれど蔵書には限りがある。まして、誰も近寄らぬ書庫に新たな本が補充されることはない。
「読んだことのないお話が読みたい!」
 地団駄を踏んだところで、空から本が降ってくるわけもなく。
 故に、姫は自らペンを取る。
 誰も知らない物語を、己が手で紡ぐために。
Twitter300字ss」 第六十四回「書く」


 お題示の説明文に「書簡、書架、偽書等「書」の入る言葉でもOKです。」と書かれていたのを見た瞬間、先日TVで見たディズニーアニメ「美女と野獣」の、城の図書室が脳裏を過りまして。
 あんな書庫になら一生籠もっていたい、ああでも新刊を補充してくれないと、いつかは読む本がなくなっちゃうな、なんて思っていたら、こんなお話に。
2020.05.02



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