幼い姫が幽閉されたのは城の書庫。
ただ一人、数多の書物に囲まれて育った姫は、今日も窓辺で吐息を漏らす。
「ああ、つまらない」
すべては書物が教えてくれた。この世の成り立ちや沢山の動植物。異国の言葉や風習。
喜びや悲しみ、怒りや憎しみといった感情さえも、物語から学び取った。
頁をめくるたびに、新たな世界が拓かれる。その瞬間がたまらなくて、眠る間も惜しんで読書に励んだ。
けれど蔵書には限りがある。まして、誰も近寄らぬ書庫に新たな本が補充されることはない。
「読んだことのないお話が読みたい!」
地団駄を踏んだところで、空から本が降ってくるわけもなく。
故に、姫は自らペンを取る。
誰も知らない物語を、己が手で紡ぐために。