春なので、奮発して本革の旅行鞄を新調した。
熟練の職人さんによる、世界に一つだけの逸品だ。
蓋を開ければ広がる、小さな世界。
布張りの青空には白い雲が浮かび、ビーズ刺繍の草原を風が渡る。
流れる小川は煌めいて、岸辺には色とりどりの花々が咲き乱れ。
こんもりとした大樹の枝には、手作りのブランコが揺れる。
湖畔に建つ煉瓦造りの小屋からは、パンの焼ける良い匂いがした。
旅行鞄を握りしめ、今日も私は旅をする。
現実から空想へ、空想から現実へ。めまぐるしく変わる世界、その荒波を掻き分けて。
そうして渡り歩くのに疲れたら、少しだけ立ち止まって鞄を開くのだ。
私だけの小さな世界は、いつだってここにある。
いつまでも、ここにある。