最初は、ただ鐘に祈りを捧げるだけだった。
そこに信仰心などなく、父の慣習をただなぞっていただけだ。
現実主義者だった父が
『正確な時計を作るために欠かせない日課なのだ』
と真顔で述べていたのが不思議だったが、何のことはない。
父は、単に知っていただけなのだ。
「もうちょっと寝かせてくれよー。多少夜明けが遅れたって問題ないだろー」
「仮にも時間の神様が、そんないい加減なこと言わんでくださいよ」
「神様だって眠い時は眠いんだよー!」
「アンタがちゃんと起きないと時計が狂うんだよ! 俺の仕事を台無しにするのはやめろ!」
時間の神を叩き起こし、街を眠りから覚ます。
これこそ、時計職人に代々伝わる、極めて重要な使命なのである。