遠方から嫁いできた娘は、手縫いの花嫁衣装を持参してきた。
純白に銀糸の縫い取りが美しい細身のドレスは、彼女の黒髪にとても映えるだろう。
「生憎と、衣装ばかりで装身具の類はございませんが」
申し訳なさそうに微笑む、その横顔さえ美しい。
彼女の父親が事業に失敗して夜逃げしていなければ、装身具どころか屋敷すべてを売り払う羽目にはならなかったはずだ。
残された母や幼い弟妹を守るため、こんな田舎貴族のもとへ嫁ぐ羽目になったというのに、それでも彼女は不平不満の一つも口にせず、ただただ周囲を気遣ってばかりいる。
「心配せずとも良い。私が其方のために冠を編もう」
この地域では、花婿が花嫁のために花冠を編んで贈る習慣がある。大抵は赤や黄色といった色鮮やかな花を編み込んだものを贈るが、それだと純白のドレスには些か釣り合わない。
それならば、白い花に銀の実を散らして。
我が花嫁のために、世界で一つだけの花冠を贈ろう。