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天つ風
 古びた絵本を閉じ、「おしまい」と結ぶ。
 瞳をキラキラさせて耳を傾けていた幼子は、朗読が終わるや否や、こう尋ねてきた。
「おばあちゃん、風ってなに?」
 ああ、そうだ。第三世代のこの子達は、エアーコンディショナーが吐き出す清浄で単調な空調しか知らない。
 花揺らす風を、吹きすさぶ嵐を、踊る旋風を、身を震わせる木枯らしを知らないまま、この窮屈な移民船の中で、彼らは大人になっていく。
「昔々、私達が地上で暮らしていた頃、家の外ではいつでも風が吹いていたの」
 それは自由気ままなようでいて、緻密に計算された大気の揺らぎ。どう説明してみても、本物には遠く及ばない。
 難しい顔をする孫娘の頭を撫でながら、遠い星に思いを馳せる。
Twitter300字ss」 第二十回「風」


 「風」と聞いた瞬間、なぜかこの話が飛び出てきました(^^ゞ

 例えエアコンが劇的進化を遂げて「風の揺らぎ」を再現できるようになったとしても、自然の風そのものにはなりえない。
 宇宙船で生まれ育った子供たちは「四季」どころか、「風」も「火」も、そして「大地」さえも知らないまま、大人になっていくのだなあ……と。

 ちなみに、実はこの作品、「科楽倶楽部」というSFシェアワールドの舞台となっている恒星間移民船をイメージしながら(勝手に)書いたSSだったりします(^^ゞ
 SF好きには堪らない設定のシェアワールドなので、ご興味ございましたら是非本家「科楽倶楽部」さんをご覧ください\(^o^)/
2016.04.02

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