古びた絵本を閉じ、「おしまい」と結ぶ。
瞳をキラキラさせて耳を傾けていた幼子は、朗読が終わるや否や、こう尋ねてきた。
「おばあちゃん、風ってなに?」
ああ、そうだ。第三世代のこの子達は、エアーコンディショナーが吐き出す清浄で単調な空調しか知らない。
花揺らす風を、吹きすさぶ嵐を、踊る旋風を、身を震わせる木枯らしを知らないまま、この窮屈な移民船の中で、彼らは大人になっていく。
「昔々、私達が地上で暮らしていた頃、家の外ではいつでも風が吹いていたの」
それは自由気ままなようでいて、緻密に計算された大気の揺らぎ。どう説明してみても、本物には遠く及ばない。
難しい顔をする孫娘の頭を撫でながら、遠い星に思いを馳せる。