VR世界《EDEN》にも秋が来た。木々は赤や黄色に染まり、澄み渡る空には赤とんぼが舞う。
絶景スポットは各所にあるが、なかでもこの《YAMATO》サーバは格別だ。夕焼けに染まる寺院を見ながら季節限定メニューに舌鼓を打つ、なんて贅沢も、比較的簡単に叶ってしまう。
「栗ご飯にしようかなあ、それとも秋刀魚、松茸……うーん、迷う!」
「ゆっくり考えなよ」
悩み続ける彼女にメニューを渡し、窓の外に広がる景色に目を細める。
「勿体ないよなあ、もうここでしか、この光景を楽しめないなんて」
現実世界から四季が失われたのは半世紀も前のこと。今は極寒の冬と灼熱の夏。その繰り返しだ。
本物を知らない僕達は、作られた秋を堪能する。