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タイムカプセル

SPACE
この言葉を覚えていますか



 十年経って地上に顔を現したタイムカプセルは、子供の時に見たものより一回りも二回りも小さくなっていた。
 あの頃の世界はそれほどまでにちっぽけだったんだな、と感慨に耽っている間に、土が落とされ、蓋が開けられていく。
 あんなに期待に胸を膨らませて埋めたタイムカプセルを囲むのは、両手両足で事足りる程度の「元・生徒」。
 いやに手際よく中身を取り出し、はいこれ、これはお前のか、と配っているのは、すでに退職して隠居の身となっている「元・担任」。
 十年という月日は容赦なく、子供を大人へ、大人を老人へと変えていた。
「春日部。お前のだ」
 ほい、と差し出された封筒をのろのろと受け取って、表に書かれた名前の汚さに絶句する。
 今でもさして上手い方じゃないが、ここまで原形を留めない文字は久し振りに見た。
 早くも封を切り、十年越しの手紙にきゃあきゃあと歓声を上げる「女子たち」を横目に、糊のはみ出した跡が著しい封筒をビリリ、と破り取る。
 中に入っているのは、いい加減に折られた四つ折りの便箋。印刷されたキャラクターは、今ではその名前さえ忘れ去られてしまった。
 何気ない振りをして、便箋を開く。そこに書かれているのは、あまりにも素っ気ない文章。


 SPACE
 この言葉を覚えていますか



 ああ、覚えていたよ。一言一句違わずに、ずっと。
 辞書を引きながら間違わないように書き写した英単語のスペルも、青いボールペンの文字も、みんな。

 覚えているよ。宇宙飛行士になって、いつかスペースシャトルで宇宙へ行くのだと心に決めていたこと。
 そのためにはもっともっと勉強しなきゃな、とからかわれて、頬を膨らませたことも。

 それなのに、思い出せないんだ。あの頃の、熱い気持ち。

 宇宙にどんな夢を抱いていたのか、それさえも。

-終わり-


 なんてことはない、ほぼ実話です(^^ゞ
 子供の頃から、ずっと宇宙に憧れていました。多分、スターウォーズとかスタートレックとか、あの辺にかぶれていたからだと思うのですが。
 で、小学生の頃、タイムカプセルが流行った時分に(学校単位ではなく、友人同士でタイムカプセルを埋めるのが流行っていたのです)、未来の自分に向けてのメッセージを書いて瓶に入れて埋めよう! ということになって、あんな手紙を書きました。
 そして、十年以上が過ぎた今、そのタイムカプセルを誰と、どこに埋めたかも覚えていないのに、自分が書いたメッセージだけはずっと覚えているんですから不思議なものです(笑)
 まだ小学生だった私にとって、英単語はまだまだ未知の分野で、それが特別な言葉で、その専門分野の人しか使わないものだと勝手に思い込んで(笑) あんなメッセージを書きました。お前はこれが読める分野にいるか、まだ子供の頃の夢を忘れていないか、と。
 しかしなんてことはない、おもいっきり日常の単語だったわけですよ(笑) しかも「宇宙」って意味だけじゃないし。
 なぜ「universe」や「cosmos」と書かなかったのか(笑) 不思議でならないわけですが(^^ゞ


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