第3話「誰が」

「おはようございます、サラ」
 落ち着いた声に振り返れば、青空に揺れる金の髪。深い海のような双眸は、いつも穏やかに凪いでいる。
 紫紺の長衣に身を包み、手には宝石を嵌めこんだ長い杖。優雅な物腰と柔和な人柄もさることながら、その美貌は道行く人が老若男女問わず必ず振り返るほどに冴え渡っている。
 ミスコンを行えば必ず上位に食い込む美貌の魔術士は、しかしその容姿や実力を鼻にかけることなく、誰に対しても丁寧な言葉遣いを崩さないところがこれまた人気の秘密だ。
「おはようございます、先生」
 噴水からぴょんと飛び降り、そう挨拶すれば、金髪の麗人は照れたように笑った。
「その呼び方はやめてくださいよ」
「だって、リファさんはれっきとした魔術科の教授じゃないですか。しかも学園一の魔術――」
「しー!!」
 焦ったように口に指を当て、きょろきょろと辺りを見回す。そしてほっと息をついたリファは、勘弁してくださいよと溜息を漏らす。
「それは禁句です。いつどこで誰が聞いているか分かりませんからね」
 はあい、と返事をしつつつ、小さく笑う。《金の魔術士》《古の魔女》などの異名を持つ学園最強の魔術士が、こんなにもこそこそしなければならない理由、それは――。
「今日こそ決着をつけてやるんだから――!!」
 彼方から聞こえてきた絶叫に、二人揃って首をすくめる。
「私は逃げます」
 言うが早いか、杖を一振りしてシュンッ、と姿を消す魔術士。町中での魔法はご法度、と咎める暇もなかった。

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