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初霜の朝
 明け方、ぐんと冷え込んだと思ったら、今日は各地で初霜が観測されたらしい。
 食堂で朝の天気予報を何とはなしに見ていたら、朝の掃除を終えた(ふみ)さんがニコニコ顔で現れた。
「今日はキンと冷えて、空気が澄んでいますね。お庭にも霜が降りていますよ」
「ほんと! 霜柱は?」
「まだです。もう少し冷え込まないと」
「早く霜柱出来ないかなー! 踏んで遊ぶのに」
「待て待て。折角文さんが整えている庭を踏み荒らすな」
「えー? だって霜柱は踏んだ感触を楽しむものでしょー?」
 (あたる)先生と手鞠ちゃんの賑やかなやりとりを横目に、朝食を掻き込む。寒いからといって、授業は待ってくれない。
「侑斗さん、今日はいっそう冷え込むようですから、これを。ようやく編み上がったのですが、ちょうど良かったですね」
 そういって差し出してくれた手袋とマフラーは、なんと文さんのお手製だ。色や柄も希望を聞いてくれて、サイズもぴったり。何という心遣いだろうか。
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
 これさえあれば、霜だろうが雪だろうが氷柱だろうがドンと来い、だ。
「浮かれてるな、青少年。この調子じゃ街中もあちこち凍り付いてるぞ、足下に気をつけてな」
 ぐさりと釘を刺してくる中先生に、気をつけます、と頭を掻いて。
「行ってきます!」
 初霜の朝も、初雪の夜も。
 この松和荘は、いつだって暖かい。
Novelber 2019」 25 初霜
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「初霜」。
 文さんは編み物上手、というお話。
 ちなみに、中先生は駆け出しのラノベ作家と手を組んで小説を共同執筆してる、文字通りの「ゴーストライター」。手鞠ちゃんは座敷童です。(手鞠ちゃんは実体化できるので霜柱を踏めるのです)

(初出:Novelber 2019/2019.11.27)
2020.01.29

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© 2020 seeds/小田島静流