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白昼夢
 はらはらと舞い降りる薄紅色の花びらに、在りし日の思い出が重なる。

 土手の桜並木が綺麗だからと、買い物帰りに寄り道をして。
 春の嵐に髪を乱されながら、舞い踊る桜吹雪にはしゃぐ彼女。
 川面を流れる花筏を見つめる横顔が随分と大人びていることに、改めて気づかされた。
 出会って五年。気づけば私も彼女も、すっかり大人になってしまって。
 昔のように、無邪気に笑い合うような間柄ではなくなってしまったけれども。
 もし――もし叶うことならば。
 この穏やかな時間が、ずっと続いて欲しい。そう願っていた。

 はたと目を瞬かせ、桜並木を見つめる。
 ああ――もう彼女はいない。いないのだ。
 そうと分かっているのに、つい彼女の姿を探してしまう。
 椿が散り、桜が咲く。時は否応なしに流れていくのに、花は今年も美しく咲き誇る。
 それならば――時が戻ったように、何でもなかったように。今にも彼女が木陰からひょいと顔を覗かせるのではないかと、儚い期待を抱いてしまうのだ。
 桜が人を惑わすというならば、ああ――どうか。
 泡沫の夢でもいい。彼女の笑顔を、もう一度見せておくれ。
Novelber 2020」 29 白昼夢
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「白昼夢」。
 「松和荘へようこそ!」より、和臣の回想。
 桜吹雪は美しすぎて、何故か不思議な怪しさを感じます。
 このお題だけ、どうしても本文中に「白昼夢」が入れられなかったのが悔しい。

(初出:Novelber 2020/2021.03.25)
2021.04.20

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