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雛人形
 もう桃の節句に浮かれるような年齢ではないというのに、今年も文さんは嬉々として雛人形の飾りつけに余念がない。
 立派な七段飾りは、初孫に浮かれた祖父母がわざわざ遠方の人形問屋まで足を運んで購入したものらしい。
「出すだけでも大変だから、もういいって言ったのに」
「いいえ。一年に一度のことなのですもの、手は抜けませんわ」
 そう答えた文さんは、ふと思い出したように笑みを零す。
「そういえば、この雛飾りをお求めになった理由は、女雛が香澄さんに似ているからだったそうなのですけれど、対になる男雛の顏が良すぎると言って、大旦那様が文句をつけてらしたんですのよ」
 妙な言いがかりをつけられて、彼らもさぞ迷惑だったに違いない。
Twitter300字SS」 第四十回「人形」
 雛人形を飾る文さんと香澄さんのお話。
 顔のいい男雛に「孫の(存在するかもわからない)未来の結婚相手」を重ねてしまった香澄さんの祖父は、雛飾りを出すたびにぶちぶちと文句を垂れては、奥さんに窘められていたのではないでしょうか(^^ゞ

 ちなみに、香澄さんと文さんが暮らしている母屋は広いので、七段飾りでも余裕で飾っておけます。
 なんなら蔵に眠る先祖代々の雛飾りも全部出して並べましょうか、と文さんは提案しているのですが、それは大変だし絵面を想像すると怖いから、と懇願してやめさせたようです(^_^;)
2018.03.04

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© 2018 seeds/小田島静流