古めかしい通用門を潜り抜けると、軽やかな箒の音が聞こえてくる。
「あら香澄さん。お帰りなさいませ」
艶やかな黒髪を翻して振り返る、着物姿の女性。彼女はここ『松和荘』のマドンナ的存在だ。
「ただいま、文さん。精が出るねえ」
労いの言葉は、今年で何度目だろう。
「今年こそは未練を断ち切りたいと思いますの!」
竹箒を手にガッツポーズを決める彼女は、「庭の落ち葉を一枚残らず掃き清める」ことが出来ずに病に倒れた大正時代の奉公人――いわゆる『地縛霊』というやつだ。
「そうか。頑張ってね」
彼女を解き放ってあげたい気持ちと、彼女が笑顔で出迎えてくれる日々がずっと続いてほしいと願う気持ちとの間で揺れながら、曖昧な笑みを返す。