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落ち葉の季節
 古めかしい通用門を潜り抜けると、軽やかな箒の音が聞こえてくる。
「あら香澄さん。お帰りなさいませ」
 艶やかな黒髪を翻して振り返る、着物姿の女性。彼女はここ『松和荘』のマドンナ的存在だ。
「ただいま、文さん。精が出るねえ」
 労いの言葉は、今年で何度目だろう。
「今年こそは未練を断ち切りたいと思いますの!」
 竹箒を手にガッツポーズを決める彼女は、「庭の落ち葉を一枚残らず掃き清める」ことが出来ずに病に倒れた大正時代の奉公人――いわゆる『地縛霊』というやつだ。
「そうか。頑張ってね」
 彼女を解き放ってあげたい気持ちと、彼女が笑顔で出迎えてくれる日々がずっと続いてほしいと願う気持ちとの間で揺れながら、曖昧な笑みを返す。
Twitter300字SS」 第二十二回「地」
 ……そして、今年もチャレンジ失敗で落ち込む彼女を慰めつつ、また一年一緒にいられることを喜ぶ香澄さん、まで書けなかった……。
 「地」でなかなかネタが出てこなくて、今回も参加できないのか~ともんどりうっていたら、ふと「地縛霊」という単語が出てきて(笑)
 もうこれで行くっきゃない! と強行突破しました。すいませんすいませんm(__)m

 実は、このSS版「落ち葉の季節」を書いた時点では、香澄さんは女性キャラにするか男性キャラにするか悩んでいて、どちらとも取れる感じで書いてます。この後、テキレボアンソロ「和」に出すロングバージョンを書いている段階で、「凛とした喋り方をする女性キャラ」として固まりました。

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© 2018 seeds/小田島静流