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書庫の主
 松来家のお屋敷には、当主以外立入禁止の書庫がある。
 当主しか鍵を持っていない――ということになっているが、実のところ鍵などかかっていない。
 この部屋に入れること(・・・・・・・・・・)こそが、松来家当主に求められる条件なのだ。 
『次期当主よ。ここを遊び場にしないで欲しいのだが』
 床に散乱する絵本を恨めしそうに見つめる『主』に、黒髪の少女はべえ、と舌を出した。
「だってここ、落ち着くんだもん」
 座敷では親戚一同が宴会中だ。閉口して逃げ出してきた少女は、絵本持参で籠城を決め込んだらしい。
「ねえ、おじさん。このご本読んで!」
 書庫に居座る先祖の幽霊を前に、物怖じしないこの態度。これこそが当主の資質というやつだ。
『昔々、あるところに……』
Twitter300字SS」 第六十五回「鍵」
 開催当日はネタが浮かばなくて参加を見送ったのですが、ふとこの話を思いついたので、大遅刻で書いてみました(^_^;)
 この『書庫の主』についてのエピソードは「カケラ Vol.05」収録の「松落葉 ~松屋敷幽霊咄~」で詳細を綴っております。(いずれサイト再録いたします)
 文句を言いつつ絵本を読んであげているあたり、そんなに悪い人ではないんですが……。
2020.06.24

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© 2020 seeds/小田島静流