当主しか鍵を持っていない――ということになっているが、実のところ鍵などかかっていない。
『次期当主よ。ここを遊び場にしないで欲しいのだが』
床に散乱する絵本を恨めしそうに見つめる『主』に、黒髪の少女はべえ、と舌を出した。
「だってここ、落ち着くんだもん」
座敷では親戚一同が宴会中だ。閉口して逃げ出してきた少女は、絵本持参で籠城を決め込んだらしい。
「ねえ、おじさん。このご本読んで!」
書庫に居座る先祖の幽霊を前に、物怖じしないこの態度。これこそが当主の資質というやつだ。
『昔々、あるところに……』