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 そして、季節は巡り――冬。

「今年も失敗ですわ……」
 一夜にして雪に覆われた庭を硝子越しに見つめ、がっくりと項垂れる文さんに、通りがかった住人達が口々に慰めの言葉をかけていく。
「こんな急に降るなんて天気予報でも言ってなかったんだし、仕方ないって」
「また来年だね」
「ファイトよ、文さん! そこで諦めたら女が廃るってもんよ」
「わーい! これでまた一年、文さんと一緒ー☆」
 ……最後の身も蓋もない歓声は、私の心の声が漏れ出たものではない。念のため。
「香澄さん。また一年、ご厄介になります」
 泣き笑いの顔で深々と頭を下げてくる文さんに、こちらこそとお辞儀を返す。
「ずっと掃除ばっかりしてたんだから、しばらくはゆっくりするといいよ」
「あら、そういう訳には参りませんわ。お庭掃除は当分できませんけれど、ずっと後回しにしていた廊下のワックスがけと、母屋の雨漏りの修繕と、水回りの点検と……」
 俄然張り切る文さんに、忙しないねえと笑う住人達。
 文さんの落ち葉チャレンジが終わり、通常営業に戻った『松和荘』は、今日も賑やかだ。

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