店を開くと決めたのは、単に暇だったからだ。いや、これまでもずっと暇だったのだが、これからもずっと暇を持て余すことに一抹の不安を覚えたから、と言った方が正しいか。
しかし、どうやら相談相手を間違えたようだ。貸店舗を探すだけのはずが、気づけば新たに店を建てる話が進んでおり、しかも出来上がった店にはどういうわけか台所や風呂までが整備されていた。
「台所なんて、あっても使わないのに」
「そりゃあ、君はろくに食べなくても支障ないんだろうけど、客に茶くらい出すだろう?」
それにね、と灰色の賢者は片目を瞑る。
「君にもいつか、食事の楽しさが理解できる日が来るかもしれないからね」
「それはお得意の予言かい」
「希望、だよ」