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百年の刹那
「おはよー」
 夜明け前の来客はあまりにも意外な人物だったから、眠気が一気に吹き飛んだ。
「おっさん、なんでここに!?」
 黎明の空を背に佇むのは《垂れ耳エルフ》のユージーン。いいから、と問答無用で連れて行かれたのは、彼が営む骨董店の裏――世界樹の根元だった。
「何なんだよ?」
「ほら、あそこ」
 見上げれば、朝日を浴びた枝の先に一つ、また一つとほころぶ花。
 常緑から薄紅色へと一気に染まりゆく樹。息を飲むような光景に、瞬きを忘れて立ち尽くす。
「この花はね、百年に一度しか咲かないんだ。だから、お花見をしよう」
 振り返れば、敷物を抱えて微笑む看板娘。
「壮大な花見だな、おい」

 悠久の時を経て 咲き誇る花
 百年の刹那を 胸に刻んで

 こちらは第5回 Text-Revolutions内有志企画「300字SSポストカードラリー」参加作品。
 四回目のお題は、開催時期にちなんで「桜」でした。
 百年の刹那。ひどく矛盾する言葉ですが、長き時をかけて力を溜め、そして一瞬で散る。その儚さこそが、この花の美しさなのだと思います。 
 なお、こちらは表面のお話。裏面おまけも合わせてお楽しみくださいm(__)m
2017.11.15


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