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霧の街
 祖母の田舎は霧が深いことで有名だ。
 とろとろと渦巻き、伸ばした手の先が見えなくなるくらいの濃霧は、幻想的という以前に恐怖の対象だった。
 だからだろうか、祖母は口を酸っぱくして繰り返す。
「霧の深い日は外に出ちゃいけないよ。違う世界に迷い込んでしまうからね」
 そんなの、子供が迷子にならないための脅し文句だろう。そんな考えは甘かったようだ。
 自販機で飲み物を買うだけ。そう言い訳をして飛び出した霧の街。曲がるはずの角を見失って立ち尽くす私の目の前で、幕が上がるように霧が晴れ――見えてきたのは、天を衝く巨木と煉瓦の街並み。そして。
「次の霧が出るまで帰れないよ」
 追いかけて来たらしい祖母が、やれやれと溜息を零した。

Twitter300字ss」 第四十八回「霧」
 タイトルに「霧の向こうの不思議な街」ってつけかけて思いとどまった私の理性を誰か褒めて。

 ……という冗談は置いておいて(^^ゞ 「霧のむこうの不思議な町」は小学生時代の愛読書でした、ええ。
 この作品の影響でしょうか、それともミステリやファンタジーの演出としてよく使われるからでしょうか、「霧」というとどうしても、事件の舞台や異世界と繋がっているイメージがあります。

 霧が出た時だけ行くことが出来る不思議な街。出た時だけ繋がる、ということは、帰る時も霧が出ないといけないわけで、一度入ってしまうとなかなか戻れないのは厄介ですね。
 しばらくは、訳知り顔のおばあちゃんと異世界を満喫してほしいところです。
2018.11.03


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