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墓標
 世界樹の根本には、かつて村があったという。
 それは遠い遠い昔話。いまや集落の痕跡もなく、残っているのは苔むした墓石が幾つか。それだけだ。
「名前も残されていないのですね」
「墓が残ってるだけいいんじゃないか? 俺達には墓すらないからな」
 からりとした口調。世界樹を見上げる翼人の横顔は、驚くほど穏やかで。
「どういうことです?」
「俺達は空に融ける。風になって、どこまでも世界を巡るんだ」
 あまりにも当たり前のことのように言われてしまったから、「それはただの伝承ではないのですか」とは聞けなかった。
「風になって、いつだってそばにいるよ」
 だから悲しむなよ、と頭を撫でてくる、その手をぎゅっと掴む。
「約束ですよ」
「ああ」
Twitter300字SS」 第八十九回「石」
 リアタイ参加しようと思ったら、考えていたネタを忘れてしまって遅刻しました。
 前に「空を翔るもの」で書きましたが、三番街出身の有翼人《エイル》は、どちらかというと精霊に近い存在で、空を翔るたびに風の元素を体内に取り込んでいくので、いずれは風に融けて消えます。
 (書いている最中に脳内でずっと「千の風に乗って」が流れていたのは言うまでもありません……)
2022.08.07


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