《世界樹の街》の郵便配達員が暮らす独身寮《蜂の巣》には食堂がない。
その代わり共同の厨房があって、誰でも自由に使っていいことになっているのだが、三食きっちり自炊するようなまめな者はおらず、ほとんどが外食で済ませてしまっている。
「外食ばっかりだと飽きるよなー」
「そう思うなら毎日同じ店に来るんじゃないよ」
女将に小突かれて、ジャックは慌てて手を振った。
「いやいや、ここのミートパイは絶品だよ? だけど、たまには家庭料理が恋しくなるわけよ」
「贅沢だねえ、まったく」
それなら、と隣の屋台を指差し、にやりと笑う女将。
「母ちゃんの手料理をせがめばいいだろ」
「あー、オルトー! 今日の夕飯作ってー!」
「誰が母ちゃんだ!」