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仕立屋ディミアナの信念

駆け込み依頼:初代の仕立てた祭礼服の補修

「明日の朝までに(つくろ)って欲しいんだけど」
 閉店間近に舞い込んだのは、繕い物の依頼だった。
 濃緑の布地を贅沢に使った、年代物の祭礼服。
 タグを確認するまでもない、間違いなく祖母の仕立てた服だ。
「脇と裾ですね。袖もほつれてるかな」
 試着中に破いてしまったのだろうか。持ち込んだ当人は、まるで悪戯がばれた子供のように長身を縮こまらせて、こちらを窺っている。

『晴れの日を彩る特別な装いだもの、最高の一着にしてみせるわ』
 几帳面な縫い目から、祖母の声が聞こえてくるようで。

「間に合うかな?」
「間に合わせますよ」
 きっと若き日の祖母も、こんなやりとりをしたのだろう。
「ありがとう」
 その笑顔につい(ほだ)されてしまうのも、きっと同じ。

 こちらは通販型企画「第9回300字SSポストカードラリー」参加作品。
 九回目のお題は「よそおい」でした。

 街をあげて行われるお祭の前夜、仕立屋「ディミアナ」に舞い込んできた駆け込み依頼。
 世代を超えて受け継がれてきた夜なべ仕事。それでも、祭礼服を着てパレードの殿を務める依頼主の姿を見たら、その疲れも吹き飛んでしまうのでしょう。

 なお、こちらは表面のお話。裏面も合わせてお楽しみくださいm(__)m
2020.12.16


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