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練習台
 カラン、と乾いた音がして、扉が開く。
「いらっしゃい、ちょうど新しいのが焼き上がったところだ」
 焼きたてのパンを棚に並べていた髭面の店主は、やってきた客の姿におやおや、と目を瞬かせた。
「今日は随分とめかしこんでるじゃないか」
 揶揄うつもりはなかったが、いつも着の身着のまま出歩いている輩が、髪に色とりどりの花やリボンを編み込んでいれば、さすがに目を惹く。
「髪結いの練習台になってたんだよ」
 どこか得意げな様子に、すぐ合点がいった。
「ああ、なるほど。例の看板娘ちゃんだな。まだまだ練習が必要みたいだが」
 骨董店の看板娘リリル・マリルは美しい銀髪の持ち主だが、鏡を見ながら自分の髪を編み込むより、他人の髪で練習した方が手っ取り早い。そういう意味では、長い髪を持ち、じっとしていることを厭わない店主は、練習台としては打ってつけだろう。
「お祭りまでに、自分で結えるようになりたいんだって」
 裁縫上手な彼女だが、髪を結うのは使用人に任せていたらしく、首の後ろで一つに結わえるのがやっと、という状態からここまで来るのに半月かかった。とはいえ、コツを掴めばすぐに上達するはずだ。
「そりゃいい、きっと似合うだろうな」
「ああ、僕よりずっとね」
Novelber 2019」 16 編み込み
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「編み込み」。
 前にもリリル・マリルが髪を結えない話を書いていたので(SS「古のまじない」)、その続きのような小咄です。

(初出:Novelber 2019/2019.11.16)
2019.12.25


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