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移ろいゆく世界
 数多の世界を生み出し、そして壊してきた。
 創造神や破壊神と呼ばれたこともあったけれど、私はただの創造者で、そして他よりちょっとだけ長生きな、ただの人間だ。
 諸事情で人の(ことわり)から外れてしまったから、もはや世界と関わることは許されない。
 だからこそ私は、ここ『最果ての塔』で隠居生活を送っているわけだ。

 窓越しに覗き見る世界は、目まぐるしく変化していく。
 関わることは出来ないから、まるで映像作品を早回しで見ている気分だ。
 そんな日々を送る私だからこそ、心の底から思うのだ。
 この世は儚い。永遠なんてものはなく、すべては移ろい、変わっていく。
「だからこそ尊いのさ」
 なんて『神の視点』で嘯いてみるけれど、すべてが自分を置いて過ぎ去っていくのは、何とも寂しいものだ。
『寂しい、なんて感情を持つくらいには、まだ世界に未練があるわけだ』
 魔法の鏡越しに辛辣な言葉を投げかけてくる知人は、私よりも長く生きているくせに、未だ『移ろいゆく世界』を謳歌し続けているのだから、たいしたものだ。
「ただの感傷さ。でも……君は寂しくはないのかい? ひとりぼっちのユージーン(ユージーン・アル・ファルド)
 世界樹と共に生きる古代種。その存在はほとんど知られていない。人々は彼のことを、ただの長命な森人族だと思っているだろう。
 同族は神話の彼方に消え、過去の遺業は昔話となり、親しい者はすべて先に逝く。長命種の宿命とはいえ、その生き様は過酷で、そして残酷だ。
『みんな世界の一部だ』
 すべてを超越した瞳で、彼は静かに笑う。
『命は循環する。別れても、またいつか、どこかで出会える。それは喜びであって、悲しみではないよ』
 でも――やっぱり、ちょっと寂しいね。
 ほとんど声にならない囁きは、鏡越しでもはっきりと聞こえた。
「そうか。私も君も、寂しがり屋さんだな」
 わざと茶化すように言ってやると、ムッとした声が返ってくる。
『同じ括りにされるのは困るな』
「長い時を持て余して、だらだら生きているところは同じだろ?」
 世界の果てから眺める者と、世界の片隅で見守る者。
 すべてが正反対な私達は、それでも――どこか似ている。
Novelber 2020」 14 うつろい
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「うつろい」。
 ユージーンの古い知己、『最果ての塔』にて隠遁生活を送っている《灰色の賢者》のお話。

(初出:Novelber 2020/2021.02.08)
2021.02.22


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