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不思議な額縁
 不思議な額縁を手に入れた。
 普段はつるんとした無垢のフレームだが、中に絵画をセットすると、その作品に合った柄が浮かび上がるのだ。
 木漏れ日の森を描いた水彩画を入れれば、木の実を探す栗鼠の姿に。
 果物の盛り合わせが描かれた静物画を入れれば、生い茂る果樹に。 
 木炭で描かれた踊り子のスケッチを入れれば、優雅に絡み合うサテンのリボンに。
 その絵が一番引き立つ柄を選んでくれるのだから、便利なことこの上ない。
 画廊にあった絵を一通り試したところで、ふと思い立って、長らく死蔵されていた一枚の絵をセットしてみた。
 真っ青に塗り潰された絵は、早世した抽象画家のアトリエから発見されたものだ。
 何を描いたのかも、題名さえも残されていなかったから、これは単に失敗作を塗り潰しただけだと思われていた。
 しかし、再利用するつもりなら、通常は白く塗り潰す。そこをあえて青一色で塗りつぶしたのだから、何らかの意味があるのではないだろうか。
「さあ、君はこの絵に、どのようなものを見出す?」

 翌朝。
 額縁に現れていたのは、大空を(かけ)る燕の姿。
「そうか。これは『空』だったのだね」
 きっとそれは、病床に伏した画家が恋い焦がれたもの。
Novelber 2020」 24 額縁
 twitter上で行われていた「novelber」という企画に参加させていただいた作品。テーマは「額縁」。
 どこにも明記はしていませんでしたが、こちらは世界樹の街・七番街にある画廊のお話。
 カクヨム公開版では最後にもう一行、「題名は『開放』、かな」という文章があったのですが、蛇足だなと思ったので削りました。

(初出:Novelber 2020/2021.03.18)
2021.04.20


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