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後書き
 同人誌版は後書きを入れる余裕がなかったので、改めてサイト版にて後書きを書かせていただきます。

 この「垂れ耳エルフと世界樹の街 ~人形の眠りと目覚め~」は、元々ツイッターで呟いた「エルフのおっさんっていいよね」という発言に端を発し、そこからどんどんと展開していったお話です。
 世界樹の街・十二番街の《黄昏通り》三番地。大樹の幹に寄りかかるようにしてどうにか建っているという店こそが、噂の《ユージーン骨董店》。
 『準備中』のまま釘で打ちつけられてた札を無視して扉を蹴飛ばせば、無精髭の森人が顔を出す。
「怠いから休みだよ」
「うっせえ! 届け物だ」

「で、届け物って?」
「このねーちゃん」
「はじめましてユージーン様」
「いつから人も届けるようになったの?」
「人ではございません。人形です」
「そう言って、ここへ連れてけって聞かねえんだもん」
「……喋る人形は取り扱ってないんでヨソ行ってもらえます?」
「嫌です」
「えー」
 2016年11月21日に呟いた、この二つのツイートが「人形の眠りと目覚め」の根幹となる「閃き」でした。

 もともと、シェアードワールド企画として考えていた「複数の世界が繋がる不思議な街」に、この「おっさんエルフ」と「面倒見のいい配達員」、「謎の配達物の少女」を当てはめてみたところ、驚くくらいにぐいぐいと話が広がっていったので、もうこれで何か書こう、と決めました。

 ここから、2017年4月1日開催の「第5回Text Revolutions」公式アンソロジー「嘘」に寄稿した「fragile」が出来上がった訳ですが、fragileを書いている時点で、第一話の「人形の眠りと目覚め」のプロットはほぼ上がっておりました。
 本当なら第一話を丸ごと入れたかったのですが、アンソロには字数制限(4000字)があったので、とても全部は入らず、前半のみを切り出して寄稿する形になりました。

 それならせめて個人誌で出そう! と思ったのですが、諸事情ありまして(=_=) とてもまとめる時間がなく、代わりに出したのが前日譚である「Prequel」(※コピー本・頒布時のタイトルは「垂れ耳エルフと世界樹の街」)です。
 この「Prequel」でユージーンとオルトの「人となり」を把握することが出来たので、次回こそは「fragile」の完全版を! と一念発起して、秋の第6回Text-Revolutionsで出したのが「人形の眠りと目覚め」でした。
 最後までタイトルや装丁に悩んだりと色々ありましたが、何とか出すことが出来て感無量です(^^ゞ
 あまりに少部数で出したので、このテキレボ6でほぼ捌けてしまいまして、悩んだ末に「再版」ではなく「サイト掲載」を決めました。
 以降はサイト掲載を先行させ、ある程度溜まったら同人誌版を検討する形にしようと思います。



 ここからは各話の解説など(^^ゞ

○人形の眠りと目覚め
 …同人誌版の巻タイトルにもなった第一話。このタイトルだけは大分前に決まっておりまして、逆にテキレボアンソロに前半を出す段階で「人形の眠りと目覚め」だと意味が分からないのではないか、ということになり、慌てて「fragile」という仮タイトルを捻り出しました。
 元々この「人形の眠りと目覚め」はエステンの同名曲からタイトルをいただいている訳ですが、どうせなら拘ってみようと、発想標語も使わせていただいております。
 エステンの「人形の眠りと目覚め」は4部構成で、最初が「ゆりかごの歌(Cradle Song)」、次が眠りに落ちる音「人形、眠る(Dolly Sleeps)」、次がかの有名な給湯器の「お湯が沸きました」メロディーにも採用されている「人形の夢(Dolly's Dream)」、そして目覚めの音「人形、目覚める(Dolly Awakes)」、最後が華やかなメロディーの「人形、踊る(Dolly Dances)」となっております。

「前奏・ゆりかごの歌」
 …前奏と題して書いた少女の独白。この時点では読者は少女の存在を知らないはずなので、「これは一体、誰のモノローグなのかな?」と興味を持ってもらいたくて書きました。

「人形の眠りと目覚め・1」
 …ここがアンソロに出した部分。大分加筆してますが、実はアンソロ原稿を書いている段階で、ほぼこの状態まで書き込んでいました。字数オーバーしたのであちこち削って体裁を整えたのが「fragile」です。読み比べていただくと面白いかもしれません。
 アンソロのテーマが「嘘」だったので、ユージーンに不穏な台詞を言わせてますが、第二話まで読み進めていただくと、ユージーンの読みがどの程度的中していたのかお分かりいただけるかと。

「人形の眠りと目覚め・2」
 …ほんとはこの「眠りながらもオルトの服の裾を掴んで離さないお人形ちゃん」の下りを「1」の後半部分に入れて「fragile」で出そうとしてました。入らなかったのでまるっと削って、夕方に移動させました(^^ゞ

「間奏・人形の夢」
 …これまた少女の回想。頭を撫でてくれた人は魔導技師のヴォルフですね。ちなみに、後半は眠りが浅くなってるので、オルトが台所で料理している音が夢の中に入って来ています。

「人形の眠りと目覚め・3」
 …ここでようやく、お人形ちゃんがなぜ骨董店にやってきたのかの話になるわけですが、手紙にはちゃんと詳しい事情が書いてあるはずなのに、ユージーンにかかると「この子をよろしく」で済まされてしまうので、ほんと……ヴォルフさん可哀想……orz
 ここで、つんと澄ましていた少女の一人称が「私(わたくし)」から「私(わたし)」に切り替わるのが、ちょっと好きです。

○幕間・雨宿り
 …実際にはここまでが第一話というくくりなので、英語版サブタイトルに発想標語「Dolly Dances」を使っています。
 実はこの話、仮タイトルを「着せ替え人形」にしてたのですが、あまりにも直球すぎるので、何かないかとあれこれ考えた結果、「この骨董店こそが、彼らが安心して雨宿りできる場所」という意味でこのタイトルに。英語版サブタイトルに合わせて、お人形ちゃんがくるくる踊ってます(笑)
 ちなみに少女の年齢についてオルトが色々推測してますが、見た目は人間でいうところの十五歳前後を想定しています。

○丘に咲く花
 …第二話はお人形ちゃんの名前にまつわるお話。こちらのタイトル――というか、お人形ちゃんの名前自体、英語版サブタイトルにした「Carnation,Lily,Lily,Rose」から取っています。
 これはアメリカ人の画家、ジョン・シンガー・サージェントによる油絵のタイトルで、幻想的なお庭と、そこに提灯を灯す少女達の光景が描かれています。絵より先にタイトルを何かで聞きかじって、まるで秘密の花園に繋がる扉を開く合言葉のような、とてもリリカルでかわいいタイトルだな、と思って、いつか何かに使いたいと思っていたのでした。

「古歌」
 …実は第二話タイトル「丘に咲く花」が決まるまではこの部分はありませんでした。全体を書きあげた後、タイトルに悩みに悩んで、ユージーンが名前の由来に触れた台詞から取ったのですが、ここでいきなり出てくるのもアレだな、と思い、冒頭にこの「古歌」を入れました。少女の故郷・カルディアに古くから伝わる歌という設定です。
 ちなみに、前述の「Carnation,Lily,Lily,Rose」は『汝、羊飼いよ、告げよ』という歌の歌詞から取られているそうです。

「丘に咲く花・1」
 …一月もの間、名前を聞く機会がなかったんかい、とツッコみたくなりますが、そもそもオルトは昼休憩の一時間+仕事が上がってから夕食までの二時間くらいしか骨董店にいないし、骨董店にいる間はずっと家事をしているので、落ち着いて話す機会などなかったんだと思いますね(^^ゞ
 そしてお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、ユージーンはあまり人の名前を呼ばないんです。(オルトについても「Prequel」では一切名前で呼びかけてなくて、だからこそ「人形の眠りと目覚め」冒頭で「オルト君」と呼ばれて、あんなに驚いてたわけです)
 ユージーンはそもそも名前で呼びかけない、オルト自身は彼女に対して何か言う時は「お前」で済ませてしまっていたので、名前を知らずとも会話は成立してたわけですね。

「丘に咲く花・2」
 …ユージーンがつけようとしていた「ドリー(お人形ちゃん)」は、実際に私がつけていた仮名です(笑)
 ちなみにユージーンの皿から華麗に退去したニンジンは全部オルトの皿に移住しております。
 ここでユージーンの「ちゃんとした格好」をはじめて描写したんですが、自分で書いといてなんですが「ちゃんとした骨董屋の店主に見える」はホント酷いなと思いました。普段どんだけ酷い格好をしているんだ……。
 さて、一月経ってようやく実家から使者(というか追手)がやって来たわけですが、第一話で「カルディアまでは馬車でも十日かかる」と言っていた通り、彼女の実家はそこそこ遠方です。更に、協力者であるヴォルフも工房を畳んで引越してしまったため、消えた少女の手がかりを掴むのに時間がかかった模様です。それを考えると、一月で少女の元へと辿り着いたバルバスは、割と優秀なのでは?

「丘に咲く花・3」
 …同人誌版では「2」と「3」の内容をまとめて「2」にしていたのですが、あまりに長かったのでサイト掲載時に分けました(^^ゞ
 ちなみに、少女がオルトの翼にもふっと顔を埋めてるシーン、最初は「白い翼」と書いていたのですが、ちょうどこの辺りで北海道旅行をしてまして、間近でカモメを見る機会に恵まれましたら、カモメの翼って灰色(+風切羽が黒)なんですね! というわけで慌てて直したという思い出深い箇所です(笑)
 少女が語った衝撃の内容をバルバスは一笑に付していましたが、さてどこまでが真実なのか。その辺りはおいおい語っていくと致しましょう。
 少女に負けず劣らず謎の多いユージーンですが、本人いわく「長く生きてると無駄に顔が広くなるんだよね」だそうです。話半分に聞いておいてください。
 そしてまた名前の話に戻るわけですが、実は元々、少女の本名は「リリル・マリル・ロサ=カルディアス」にしようと思ってました。書いていくうちに「もうちょっと貴族のお嬢様らしく盛るか」ということで「リリエル・マリー・ロサ=カルディアス」に変更。元の名前は愛称として残しました。なお、名前の由来となっている花は、みな領主館のある「港を見下ろす丘」に咲く花々です。(それを歌ったのが冒頭の「古歌」というわけです)

○余聞・月鏡
 …台割を組んだら3ページほど余ったので、後書きを入れようと思ってたのですが、後書きよりも小説が読みたいという方が割といらっしゃるようなので、その分のページ数を掌編に回しました。
 内容が「次巻予告」みたいになっちゃったので、目次のところに「予告」って入れようかとか本気で考えたんですが(笑) 「閑話」「余談」「終曲」と色々考えた結果、「余聞(よぶん)」が「余分」とかかってていいかなと思って(笑) これにしました。
 オルトやリリルに対しては柔和なユージーンが「一切容赦のない素の口調」で喋るところが書きたくて、「果ての塔の引きこもり賢者」という、いかにもチートなキャラ(笑)を出してみました。ちなみに異名は「灰色の魔術師」です。(いつも灰色の長衣を着ているから)
 ちなみに途中、彼が「ひとりぼっちのユージーン(ユージーン・アル・ファルド)」と呼びかけていますが(同人誌版ではこのルビを入れ忘れました(^^ゞ)、「アル・ファルド」はアラビア語で「孤独なもの」という意味だそうで、ウミヘビ座の二等星についている名前です。
 なお、この「引きこもり賢者」は次話以降、ちょいちょい話を引っ掻き回しに来る予定です(^^ゞ 



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