「海へ行こうよ」
唐突な言葉に、思わず調理の手が止まる。
「急に何を言い出した?」
「だって、夏と言えば海でしょ」
「まだ夏じゃないぞ」
このところ真夏を思わせる気温が続いているが、本格的な夏の到来は一月以上先だ。
「夏の連休の話だよ。たまには夏らしいことをしてみようかと思って。三番街なら日帰りできるし、泊りがけでもいいね」
意外すぎる言葉に目を剥けば、ほらさ、と頬を掻く。
「君が見ていた海を、僕も見てみたいと思って」
照れくさい台詞だが、驚くべきはそこじゃない。
(故郷の話なんてしたことなんかあったか?)
「楽しみだなー。浜辺で昼寝」
「遊びに行くんじゃないのかよ!」
「楽しみなのです!」
無邪気にはしゃぐ看板娘は、もう水着の算段を始めている。