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* しかえし *




「らう〜。きょう、なんのひ、しってる? 」
どこか浮かれた風の少女に、満面の笑みで。

「ああ知ってるぞ。ホワイトデーっていうんだろ? バレンタインのお返しをするんだよな」
「らうっ! おかえしは、さんばいがえしなんだって!」
「そーかそーか。なぁに、三倍なんてケチくさいこと言わないさ。そうだな、五倍にして返してやる」


どん。




「なに、これぇ〜??」
「お前、あの義理チョコにへったくそな字ぃ書きやがって……これで文字の勉強でもして、ちったぁマシな字書けってんだ!」
「ぇえええっ!?」

「まだまだあるぞ」


どん、どん、どん、どん。


「カナに数字、アルファベットに漢字。これで読み書きはバッチリだな!」
「らう〜……」
「なんだ、遠慮するな。ほら鉛筆と消しゴムもおまけにつけてやる。さっさと取り掛かれ!」
「あうぅ〜」

ドリルと筆記用具を手に、すごすごと書庫へ向かう少女

やがて聞こえてくる、賑やかな物音

がりがりがり、がりっ

「えんぴつ、おれたぁ」

ごしごしごし
「う〜、わかんなぁい」

………

へろへろになりながら、一冊終えた頃

コンコン

「休憩するか?」
「らうっ!!」

ぽーんと書斎を飛び出せば、鼻腔をくすぐる甘い匂い



「らうっ!? これ、たべていいの?」
「いらないなら俺一人で食うぞ」
「いる〜!!」

 猛然とクッキーを貪る少女を横目に、たっぷりのお湯と牛乳で割ったお子様用紅茶を淹れながら

「この俺がわざわざ焼いてやったんだからな、ありがたく食えよ」
「らうっ! おいしい〜!!」
「こら、茶も飲め! 喉つっかえるぞ!」
「だぁいじょう、う゛っ!?」

げほげほ、げほっ

「ほら、言わんこっちゃない」
「あう〜」

気を取り直して、再びクッキーに手を伸ばし

「るふぃーり、しあわせ〜(もぐもぐ)」
「お手軽な幸せだなぁ、おい」
「らう、しあわせ?」
「……かもな」


小さな幸せと不幸せ
あどけない笑顔と、朗らかな笑い声
何気ない日々の、ほんの一コマ













 ホワイトデー小ネタ。くどいようですが、この世界にはホワイトデーも三倍返し(笑) もありません。念のため(笑)

 ホワイトデーの定番はキャンディーやマシュマロって聞いたんですが、最近では「三倍返し」の風習(?)のせいか、高価な品を贈ることが多いみたいですね。義理チョコも迂闊にもらえない時代になってしまったのでしょうか(^^ゞ
 飴やマシュマロは作りにくそうだったので、ここはラウルでも作れそうなクッキーにしてみました。彼自身も甘党だし。
 ちなみに、文中に出てきた「子供用お茶」はケンブリックティーというものだったと思います。作り方は曖昧ですが、とにかく殆どお茶の味がしない、子供用のミルクティーだったと。
 小さい頃は「紅茶を飲むと成長が止まる(?)」と言われて、こういう薄いお茶しか飲ませてもらえなかったなあ、と思い出しながら書きました(^^ゞ

初出 2005.03.14



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