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* 大釜 *





ぐつぐつ もくもく 魔女の大釜
秘伝の薬の材料はなぁに?

とかげのしっぽに バラの花
芥子の実 グミの実 トンボの目玉
隠し味には 赤子の涙


通された部屋のど真ん中で煮え立っていたのは、大人用の風呂になりそうな大釜
目に染みる湯気と鼻が曲がりそうな異臭立ち込めるこの部屋で、あとどのくらい待てばいいんだ?
「三賢人の皆様はとてもお忙しい方々なので……」なんて、呼び出したのはそっちだろうが!

大体、なんでこのオレが魔法使いになんかならなきゃいけないんだ
中流貴族の三男坊 そこそこ美形で頭もいい
長兄は家督を継ぎ、次兄は騎士団で地道に出世
それなのに
末っ子のオレだけが、なぜに魔法使いの弟子
しかも変人揃いで知られた北の塔だなんて、冗談じゃない

ああ、これからの人生を考えただけで頭がくらくらする……

ん?
本当にくらくらするぞ?

おいおいおいおい、さっきより湯気濃くなってないか!?
つーか、湯気じゃなくて煙!? 焦げてるぞこれ!!
やばいんじゃないのか、この大釜!!

やばいやばいやばい。逃げろ逃げろ逃げろ。

って、なんで扉に鍵かかってるんだ――!?

これはなんだ、何かの陰謀か
オレなんか暗殺したって何の得にもならないぞ

まずい、とうとう意識が朦朧としてきた
しかも煙で何にも見えねー!!

やばいやばいやばい。とにかく逃げないと
えーっと、確かあっちに小窓があったはず……

ドンガラガッシャーン

「あっぢ―――――――!!!」

「なにやってんの―――――――!?」


「魔女の大釜を履くなんて、あんた大物ね」
「やかましー……」

扉を蹴倒し 釜に水をかけ
火傷の手当てをしてくれたのは
十歳くらいの 生意気そうなおかっぱチビ

涙を流して笑いつつ
ふんぞりかえって言うことには

「気に入ったわ。あんた、わたしの弟子になりなさい」

「なに―――――!?」

三賢人が一、《北の魔女》アルメイア
クソ生意気で、うっかり妙な薬を焦がしてオレを殺しそうになったこの小娘こそが
オレの師匠となる人だなんて
人生は、あまりにも不条理だ……






  『魔法使いの七つ道具』というお題で、魔術士の塔『北の塔』を舞台に、そこで暮らす魔術士達の日常を追っていこうと思います。
 北の魔女ことおかっぱチビ(笑) アルメイアに弟子入りすることとなった新米魔法使い君。プロフィールが本文中に全然出ておりませんが(^^ゞ 本人が言っている通り「そこそこ美形」な金髪碧眼の14歳でございます(^^ゞ 名前などはそのうち出てくると思いますので割愛(酷い)
 ユラ&アルでは話が進まないので、突っ込み担当として作り出したキャラですが、なかなか動かしやすい子で(^^ゞ そのうち彼をきちんと主人公に据えて、短編でも書いてみたいなあ。

初出 2006.10.19



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