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* 杖 *





楓にトネリコ 柳に黒檀
金銀銅に 鉄と青銅
瑪瑙に水晶 柘榴石 緑柱石に金剛石
一角獣の角 赤竜の鱗 虹孔雀の羽
色々試してみてごらん
きっと見つかる 君だけの杖



カラーン、カン、コン……
地下倉庫に響き渡る空虚な音は、まるで人を嘲笑っているかのようで
とほほ、と肩を落とせば、倉庫番の《おかみさん》がやれやれ、と呟いた
「これもだめか。お前さん、よっぽどひねくれた魔力の持ち主らしいねえ」
好きでひねくれてるわけじゃねーや
ってか魔力にひねくれてるとか素直だとか、そんなのあるのかよ
「長年倉庫番を努めてるけど、こんなに『不適合』なヤツは初めて見たねえ」
「まったく、困ったもんねえ」
床の上にうず高く積まれた『不適合杖』におししょーサマは呆れ顔
いや、オレが一番びっくりなんすけど
何をやってもどこをとってもごくフツーのオレが、そんなとこだけフツーじゃないなんて
……ちっとも嬉しくねーな……
「これじゃ次の段階の修行に入れないじゃないの」
次の段階って、今まで修行なんかしてたっけか??
今までやってきたことと言えば
炊事に洗濯、掃除に肩もみ
納戸の整理に水回りのカビ取り
街への買出しに動物の世話
立派な主夫になる自信はついたけど
立派な魔術士への道は果てしなく遠いような
「うっさいわね! 今はとにかく杖よ、杖! じゃないと実践が出来ないでしょうが!」
うーん、そんなこと言われても、肝心の杖がオレに合わないんじゃどーしよーもなくね?
「あんたが杖に合わせなさいっ!!」
そんな無茶な……
と、唐突に『ぽんっ』と手を叩く《おかみさん》
「そうだそうだ、あの杖があったじゃないか。ちょっとお待ち。確かあの棚の上に……」
いそいそと長い梯子を引っ張り出して、恐ろしく高い棚の上の方から取り出されたのは
見事なまでに埃まみれの細長い小箱
すっかり色褪せた紫色の組み紐をほどけば、中から出てきたのは――
『カタカタカタカタ……』
……なんすか、この不気味に笑う髑髏がついたキモい杖は
「ずーっと前に旅の魔術士が持ち込んだ杖でね。気難しくって誰にも扱えなかったんだよ」
気難しいって、髑髏に気安いやつとかいるんすか
「自分に合わないと噛むのよ、こいつ。私もユラも噛まれて酷い目にあったわ」
噛むって、おい
「ま、物は試しよ。ほら持ってみなさいっ!」
い、いいいやいいっすよ、オレ。遠慮しときまーす
「問答無用っ!!」
ひいっ



あれ、噛まれない?
『カチカチカチカチカチカチ』
 ってか、なんか笑ってるー???
「あら、認められたみたいね?」
「ひねくれモノ同士、気が合ったんだろう。よし、じゃあ今日からお前さんの杖はこれだよ」
げっ、まじかよ
こんな気色悪い髑髏つきの杖を使わなくちゃならないなんて……
「あー、そうそう。その杖の名前、『漆黒の貴婦人』っていうのよ。可愛がってあげなさいね」
どこが漆黒? どこが貴婦人?
ってか可愛がれるか、こんなの――!!
『カプッ』
いって―――――!!
「あらあら、甘噛みなんかしちゃって、懐かれたわねえ」
「よっぽど気に入られたんだね。いや良かった良かった」
歯形のついた手をぶんぶん振れば
真っ白い髑髏がにかっと笑った、そんな気がした






 杖選び、というとハリー・○ッターを思い出します(^^ゞ
 この世界では必ずしも魔術士が杖を持つ必要はないのですが、精神集中のアイテムとして一番よく使われているのは、やはり杖のようです。
 さて、白い髑髏の『漆黒の貴婦人』さんに気に入られたハル君。これから毎日、朝から晩まで彼女と一緒だなんて、いやもうアツアツだねえ(笑)

初出 2007.06.08



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