突然の休講に暇を持て余し
いつもより早くアパートに帰ってみたら
『にゃあーん』
「……なんだお前は」
誰もいないはずの部屋で
くつろぎまくる灰色の毛玉
人の顔を見て逃げ出さないのは褒めてやるが
わざとらしくそっぽを向く辺り
なかなかいい根性をしてるじゃないか
「ケイさんだな……」
どうせどっかで拾ってきたか
誰かに押し付けられかしたんだろうけど
「悪いがお前はここに置けないぞ。このアパートはペット禁止なんだから」
いくらケイさんの大叔母さんが大家とはいえ
ルール違反はいけません
『にゃん』
分かってるよと言いたげに
ぴたんと尻尾を打ち付けて
とことこやってきた灰色猫は
足の間を八の字歩行
生暖かい感触が
懐かしい記憶を呼び覚ます
昔、家の近所にいた猫も
こうして人の足にまとわりついては
しきりとおねだりしてたっけ
「腹減ってるんだな?」
『にゃーん』
そういやいつの間にか
姿を見せなくなったあの猫も
綺麗な灰色の毛並みをしてたんだ
「まさか、な」
九つの命をつないで
再び俺のところへ来てくれたなら
猫缶の一つくらいは馳走してやるのが
人情と言うものかもしれない
「仕方ないな、ちょっと待ってろ」
脱ぎかけた上着をもう一度着直した瞬間
玄関ドアが開く音がした
「たっだいまー! 猫ちゃん元気にしてたー!?」