4.空に潜る
「あっついなあ~」
 じりじりと照りつける日差しに、額から流れ落ちる汗を手で拭う。まだ七の月も半ばだというのに、朝からぐんぐんと気温が上がり、うだるような暑さが体力を奪っていく。いくら衣類を夏仕様に切り替えても金属鎧が熱を帯びるのは避けられない。日除けに羽織った布のおかげで多少はましだが、暑いものは暑い。
「あの連中、この暑さの中を黒装束で通してるんだったら、ある意味すげえわ……」
 三人がひいひい言いながら進んでいるこの街道を、『黒き炎』と思われる集団が北上していくのが最後に目撃されたのはつい昨日のことだ。昼前に立ち寄った村で得たその情報は、ラーンの足を速めさせるには十分だった。ラドックの町を出てまだ三日しか経っていないから、順調に距離を縮めていることになる。
「なあリファ……って、あれ?」
 いつもなら間髪入れずに飛んでくる突っ込みがないことに気づいて振り返れば、二人は緩やかな上り坂の遥か下にいた。暑さでか、それとも荷物の重さに耐えかねてか、若干よろめいている約一名を見かねて、大声で呼びかける。
「おーい、二人ともー! そろそろ休憩にするか?」
 ようやっと顔を上げた二人は嬉しそうに視線を交わし、残った力を振り絞るように坂を上ってくる。そうしてどうにかラーンのところまでやってきた二人は、倒れ込むように木陰へと避難して大きく息を吐いた。
「いやあ、この暑さはちょっと参りますね」
 長衣を着込んだリファはもとより、布を重ねた服装のエルクもまた暑さには弱かった。リファはまだそこまでへばってはいないようだが、エルクは返事すら出来ずに黙って頷くのみだ。
「風がないから余計辛いんだよな。エルク、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ、です……」
 どうにか言葉を紡ぎ出すエルクだが、すでに体力は限界に近かった。一日中歩き通しの生活にはだいぶ慣れてきたつもりだったが、まるで温い水の中を進むようなこの状態はかなり堪える。
「もう少し行くと川があるはずです。そこで休憩しましょう」
「おおっ!」
 リファの提案に、俄然やる気を出すラーン。ちょっと見てくる、と駆け出したかと思うと、大分先の方でぴたりと止まり、ぶんぶんと両手を振って叫んできた。
「あったあった! こっちだ!」
 言うが早いか、藪を掻き分けて行ってしまうラーンに、思わず顔を見合わせて笑う二人。
「まるで子供ですね。さあ、私達も行きましょう。もう少しの辛抱ですよ」
「はいっ!」
 一度腰を下ろしてしまうと再び動き出すのは辛かったが、川べりならもっと心地よいだろうと自らに言い聞かせて、よいしょと立ち上がる。
「おおっ! 結構大きい川だぜ! 早く来いよ二人とも!」
 ラーンの歓声を追いかけて藪に分け入れば、響いてくる水音が耳に心地よい。
「待ってくださいよラーン!」
 駆け出すリファの背中を追いかけて、エルクもまた重い足に鞭打って走り出した。