「庭園」没原稿 その2 |
エスタスに引っ張られて、蔓薔薇の門をくぐる。その途端に風景が変わった。抜けるような真夏の青空、もくもくと湧き上がる入道雲。庭園の緑はより一層濃くなって、噴水の水飛沫が清涼感を運ぶ。 「ああ。ほら! あそこにいますよ!」 エスタスが指差したのは噴水の向こう、緑に半ば埋もれるようにして佇む獅子の像。その背中にまたがってきゃっきゃと笑い声を上げている金髪の少女は、なぜか一人だけいつもの姿で手を振っている。 「らう〜!」 嬉しそうに叫んで、ぴとっと抱きついてくる少女。いつもならびくともしないはずが、この大きさではどうにも支えきれず、 「うわわわわ」 飛びつかれた勢いで後ろにひっくり返りそうになって、なんとか持ちこたえる。 「お前なあ……」 「あは、らう、ちっちゃーい♪」 「わっ、馬鹿! 登るな潰れるっ!」 面白そうにしがみついてくる少女を引っぺがしながら、改めて回りを見渡す。さきほどの場所とは一転して、ここは背の高い生垣で仕切られた、まるで迷路のような作りになっていた。はたと振り返り、たった今くぐりぬけてきたはずの門がどこにもないことに気づいて、そのいかにもな展開に苦笑する。 「夢だもんな、理屈は通じないか」 「そうですよ、そもそも夢というのはですね、寝ている間に頭が情報の整理整頓を……」 小さくなっても、カイトの悪癖は変わらないようだ。延々と続く講釈を適当に聞き流していると、足にまとわりついていた少女が、ぱっと駆け出していった。 「あっ、こら待て、どこへ行くんだっ」 賑やかな笑い声を上げながら、少女は曲がりくねった緑の迷路を駆け抜けていく。慌てて追いかけるが、何故かいつまで経っても距離が縮まらない。 「おいチビ! 待てって!」 「ここまで、おいでー♪」 いつになく生意気な口を利いて、少女は目の前に現れた緑の門をぴょん、とくぐり抜けた。 「待てって、おい! ――あれ」 追いかけて門をくぐった途端、足元で落ち葉ががさり、と音を立てた。 |
その3へ続く |