北国の春は遅い。冬枯れの庭園からはようやく雪が消えたものの、水墨画のような淡い色合いのまま、ひっそりと息を潜めている。
とはいえ、庭師にとってはこれからが忙しい。施肥や剪定、害虫駆除から植え替えまで、花の季節を前に、やることが山積みだ。
公務の息抜きだと称してやってきた若き女王は、そんな地道な作業を、飽きもせずに見つめている。
「見てたって面白くないだろう? 花が咲いてから見に来ればいいのに」
「何を言ってるの。どんな時だって、この庭は美しいわ」
枯れた噴水の端を辿りながら、ふわりと裾を翻して笑う。
「私は好きよ」
色を失った庭に咲く、艶やかな笑顔。
――そう。君こそが、僕の世界を鮮やかに染め上げる、一輪の花。