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蔓薔薇の密談

  だって、ねえ? 酷いと思わない?

 そんな噂を鵜呑みにして、あっさり身を引くなんて
 第一、あたしが貴族のお坊ちゃんなんかと結婚するわけないじゃないの

 まー、確かにな

 それでもね、いつかは帰って来るって、信じてたの
 だから意地でも、あの人を待とうと思ったわ
 ほかにいい男も見つからなかったしね


 なるほど

 もしかしたら、どこかでのたれ死んでるのかもしれない
 でも、そうしたらあの人のことだもの
 最後に一目、とか言って、会いに来るに決まってる
 そうしたら盛大に文句を言ってやるのにって意気込んでたら、こっちが先に死んじゃってさ

 
 ちゃんと未練を残さずに、行くつもりだったのよ?
 それなのにあの人ったら、帰ってくるんだもの!!
 だからつい、戻ってきちゃったのよね


 ……おいおい、そう簡単に言ってくれるなよ

 
あら、ごめんなさい
 でもさあ、せっかく吹っ切ろうとしたところにのこのこ帰ってきて、しかも一人で悲劇の主人公みたいな顔してさ、腹が立つじゃないの!!


 ……まあな

 墓参りに来ても、ちっとも気づいてくれないし。

 そりゃあ無理ってモンだ。死者の声は、生者には届かない。俺たちみたいな人間を除けばな

 そうよねえ、おいそれと死者の声が聞こえちゃったら、かえって面倒だろうし
 でも、あっちの声は筒抜けなのよ? しかも、どんなに離れていても聞こえてくるんだもの
 聞いてるこっちが辛くて、余計に還れなくなった

 せめて、この声が聞こえたなら
 あたしの歌が、あの人に届いたなら……

 ……それが、あんたの未練だな

 そう
 あんなに歌い続けたのに、肝心のあの人には届かなかった
 こんなに歌い続けているのに、悲しむあの人に届かない

 せめて、最後に一度
 あの歌を……


 おいおい、泣くなって! ったく、参ったな……

 
ごめんなさい、みっともない顔してるわね、あたし
 ようやく話を聞いてくれる人がいたから、嬉しくって
 何か、すっきりしちゃった
 これ以上あなたに迷惑かけるわけにも行かないし、もう行くわね


 待てよ

 
……え?

 要するに、あのおっさんに歌が届けばいいんだな?

 ええ、せめて一曲だけでも
 あの人の前で歌うことが出来たなら……!




「……仕方ねえな」

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